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モリの洞窟

モリエールの妄想の洞窟へようこそ

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「それ…、どういうこと…?」

「人の世に生まれることができなかった魂に祝福を与えて天使にしてるんだよ、オデコちゃん」

「たくさんの愛をうけて、生まれる日を待ち望まれてきた魂なんだよ」

「でも死んじゃうなんて…!」

悲鳴が上がって、見習い天使は口を閉じて声が聞こえた部屋をうかがった。

女の人はさっきよりもひどく苦しそうであった。

「オデコちゃん、君もああやって生まれる間近で死んじゃったんだ」

「私が…?」

「前の子と迎えに行ったのは、オデコちゃん、君だったんだよ。考えてみたら、ボクたちって縁が深いよね」

「ええっ!?」

横からの星の子の話に驚いたり、目の前の部屋の様子にハラハラしたり、見習い天使はあまりのめまぐるしさに胸が痛くなってきた。

「昔とかわんないオデコの広さに、あん時は笑いがとまんなかったよ」

「ちょっと、星の子!」

何だか思い出している星の子に、思わずムッとした顔を向けた。

「やめてよ、オデコちゃん。オデコ向けないで」

クックと笑いをかみ締めてる星の子に、鼻息荒く睨みつけて、見習い天使は顔を背けた。

自分がどうやって天使になったのかを知って、ショックで泣き出したい想いは、星の子のとぼけた笑いに幾分か目減りしてしまっていた。

どんなに思い出そうとしても、天使の館で過ごす毎日のことしか思い出せない。

かつて人として生まれようとしていたとは思いもしないことであった。

でも、どうしてそれを今、星の子は話すのだろう。

見習い天使はようやく笑いの収まった星の子へとまた顔を向ける。

「ねぇ、星の子。何で私たちはそんな大切なことを教えられないんだろう…?」

「それはね、オデコちゃん。前もって知ってるより、今それを知って、どう感じるかが大事なんだってさ」

「え~と?」

「その気持ちを、今、生まれようとしている天使に与えるんだ」

「ええ?」

「それはまだだから、楽にしていてよ」

「ああ~、もう、何だかわかんないよ~」

もやもやした想いと、意味のわからない星の子の話に見習い天使は顔をしかめるばかりであった。



低く懸かっていた月は、時間が経つにつれて、徐々に高度をあげて、夜空を明るく照らしはじめた。

まあるく歪みのない満月の夜である。

月に押されるように、先ほどまで空一面に輝いていた星の輝きは薄れてしまっていた。

「下から見上げる月って、やっぱりずっと小さくなるんだね」

見習い天使はいつもよりもずっと小さく見える月を見つめて言った。

大きさは変わっても、美しさは変わることはなく映っていた。

そして月明かりに照らされる家々や林は見習い天使が過ごしている世界とはまるで別世界で、その時を待って、緊張しながらも辺りを見渡してしまうのである。

「今日は満月の夜か…」

「うん、綺麗なまんまるお月様だね」

「満月か…。星明りが見えなくなっちゃったな…」

星の子は顔を曇らせて空を見上げてボソリとつぶやき、その声音に見習い天使は星の子を振り向いた。

「どうかしたの…?」

「ん…いや…」

頭に浮かんだ不安を見せまいと、星の子は顔を振って笑顔を作る。

満月の夜は不思議な力が働きやすいのだ。

月の光に誘われるように目に見えない者が集う。

けれどそのことを見習い天使に告げても、これから起こる事で頭がいっぱいなのに、ただ心配事を増やすだけであろう。

それに考えすぎなのかもしれない。

任務が失敗することは稀な話なのだから…。


目の前の部屋の中の様子があわただしくなった。

そして、白衣を着た人たちが落胆した顔を見合わせ、ベッドに横たわる女の人と、そばに立つ男の人に何かを告げた。

途端に女の人の泣き声があがった。

心を揺する悲しい叫び声が絶え間なく響いた。




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かなりの距離を飛んだ頃、前を行く星の子は徐々に高度を下げていった。

見習い天使もそれに従ってついて行く。

「うわ~!建物がたくさんあるんだね~。ねぇ、星の子。まだまだ行くの?」

「もうちょっとだよ、オデコちゃん。この街を抜けた丘の上の一軒家だ」

華やかなネオンがきらめく街並みに、見習い天使は目を見張ってあちこちに視線をおくる。

「そんなにキョロキョロしてたら、電線にひっかかるよ、オデコちゃん」

「ほら、あそこにある線だよ。ひっかけたらこの街の灯りが消えちゃうから注意して」

「えっ!消えちゃうの!?」

見習い天使はあたりを見回して、星の子の言う電線があちこちに張られているのを見て、思わず肩をすくめた。

いつも何もない空しか見てなかった見習い天使には、どれもこれも不思議なものばかりなのだ。

「ねぇ、星の子。こんなに低く飛んでたら、人に見られちゃうんじゃない?」

「普通の人には、ボクらは見えないから大丈夫だよ、オデコちゃん」

「本当?」

「あんまり騒ぐと、雰囲気は伝わるみたいだけどね」

「そうなんだ…」

見習い天使は見えないことにホッとして、少し落ち着いて街並みを見れるようになった。

しばらく行くと、大きな高い建物は少なくなって、低い小さなかわいい家が多くなってきた。

家を取り巻く緑も多い。

道路もまっすぐではなく、くねくねと曲がって伸びている。

点々と続く街灯に沿って、飛び続ける二人だ。

「オデコちゃん、あの家だ」

肩越しに振り返って、星の子は声をかけると手でその家を指した。

木々に囲まれた、小さな一軒家であった。

犬の鳴き声がかすかに届いてくる。

周りの家とは違い、その家は煌々と窓から灯りがもれていた。

星の子について、大きく灯りがもれている二階の窓が覗ける高さの木の枝に二人は乗った。

部屋の中央にある大きなベットに、女の人が苦しそうに横になっていた。

その女の人の手を、心配顔で見つめる男の人が握ってそばに屈んでいる。

部屋の中には他にも白い服を着た年配の男の人や若い女の人がいて、忙しそうに歩き回っていた。

「…星の子…、新しい天使はどこにいるの…?」

見たところ、小さな子は見当たらない。

部屋の中には人しかいないのだ。

「まだ…みたいだね…。でも、もうすぐだ」

「もうすぐ…?」

星の子は悲しい顔で部屋の中を覗きこんでいて、見習い天使は首を傾げた。

「見てごらん、オデコちゃん。あのベッドで横になってる女の人…、おなかが大きいだろ?」

「う、うん」

「おなかの中にいる赤ちゃんが…もうすぐ天使になるんだ」

「えっ?それって、どういうことなの?」

「あの赤ちゃんは人の世界に生まれることができなくなっちゃったんだ…もうすぐ死んじゃうんだよ」

「えっ!?」

星の子は重々しく言葉を繋いだ。

見習い天使は、信じられない面持ちで、また部屋の中へと目線を注いだ。

「オデコちゃん…、君もあの赤ちゃんと同じように天使になったんだよ」

「ええっ!?」

弾けるように見習い天使は、星の子を振り返る。

そこには、からかってるわけではなく、真面目な星の子の顔があった。

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真っ白い、ふわふわの雲のトンネルを下界へと向けて二人は飛んでいく。

すぐにトンネルは切れて、夜空が広がった。

星々は煌めき、真っ暗な空を彩っている。

そして地上には街の明かりが、空以上の輝きを放っていた。

「すごい綺麗…」

見習い天使にとって、はじめて間近に見る下界である。

いつも雪降らし作業にもっと高いところからちらっと見るだけだったのだ。

地上に集まるそのまばゆい街の明かりは、辺りを遠く見渡すと、あちこちに散らばるようにはるか遠くまで広がっていた。

「ねぇ、星の子。新しく生まれる天使ってどこにいるか知ってるの?」

「もちろん。だってボクは案内をまかされてる」

「じゃあ、帰り道も?」

「あったり前さぁ」

星の子の頼りがいのある様子に、見習い天使はホッと安堵して口元を上げた。

「よかった。だって私、天使の館がどこにあるのか、よくわかんないんだもん」

「えっ!?知らないのっ!?授業で習ってなかった??」

「授業って何?雪を上手に降らせる方法だったら、うん、今はバッチリ」

星の子は見習い天使を、そのつぶらな瞳でキョトンとして見つめ、何度も何度もまばたきをした。

「…うっそ…!前の子はそんなとぼけたこと言わなかったよ」

「前の子?星の子はこういう任務は二回目なの?」

「うん。これが成功したら、ボクは扉をくぐれるんだ」

「?扉? さっきくぐってきた扉のこと?」

「ちがうよ、運命の扉さ。ボクは、やっと、ここまできたんだ。その扉をくぐってボクは生まれかわるんだ」

「星の子、やめちゃうの…?」

鼻息荒く、わくわくした面持ちで話していた星の子は、見習い天使の問いかけに、サッと顔を曇らせた。

「…星の子なんてなるもんじゃないんだ…」

「…どうして…?」

星の子は、悲しい眼差しを地上の光の集まりに向ける。

「ボクたち星の子は…罪びとなんだ。…自分を殺してしまった罪を背負ってる…」

「えっ?」

「人だった時の記憶が…今もボクは持ってる。ほら、あそこの小さな街明かり、あそこに昔ボクは住んでた」

「あの街…?」

星の子が指す方向の小さな光の集まりを見習い天使は目を細めて見つめた。

「どうして自分を殺しちゃったの…?」

「…何でだろ…今となったら、ホントに些細なことで…馬鹿だったなぁって思うよ…」

寂しく呟くと、星の子はかつて住んでいた街明かりを見やる。

「ねぇ、星の子。時間があるなら、あの街に行ってみない?」

「何で?」

「だって、星の子はあの街に住んでたんでしょう?」

「行ったって仕方ないよ。ボクが住んでたのは、もう100年以上も昔の話だもん」

「えっ!?」

「もう、ボクを知っているのは、ボクだけなんだよ、オデコちゃん。お父さんもお母さんも…もう死んじゃった」

「…そうなの…?」

「ボクは星の子になって、ずっとあの街の上で輝いていた」

「毎晩、お母さんがボクを想って泣いているのや、お父さんが休みのたびにボクが使ってた自転車を磨いているのを見てたんだ」

「ボクが死んじゃったから…いつも悲しい顔をしてた…」

急に泣き声が上がり、星の子が顔を向けると、見習い天使が大粒の涙を落としているところであった。

「オデコちゃんまで泣かないでよ」

「だって、星の子も、星の子のお父さんもお母さんもかわいそう…!」

「…もういいんだ。だって悔やんだって、もうどうにもなんないし…」

「それに、ボクはこの任務を無事に終えたら、扉をくぐれるんだ!さあ、行こう、オデコちゃん!」

まるで見習い天使を元気づけるように、星の子は体を一瞬輝かせ、キラキラした光の線を引きながら、見習い天使の前を飛んだ。

見習い天使は涙を拭い、かつて星の子が住んでいたという街明かりを越え、星の子について夜空を飛んでいった。

 

 


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どこにそんな力があるのか、自分の体の半分にも満たない星の子に手を引かれて、オデコの広い見習い天使は夜色に染まりはじめた空を飛んでいく。

景色が糸を引くように、どんどん後方へ流れていく。

こんなに速く飛ぶのははじめてで、オデコの広い見習い天使はだんだんと意識が遠のいていった。



『…起きなさい…』

『…オデコちゃん…』

聞きなれた声が遠くで聞こえてくる。

目を開くと、目の前に屈み込む星の子と、セミロングの濃い金髪を後ろで結んだ上官の天使さまの姿があった。

(…?…これって、ゆめ…?)

二人の向こうに見える天井は高く、見たことのない部屋なのだ。

しきりに話かけている星の子の声がよく聞こえない。

耳が詰まってるような違和感があるのだ。

(…あ、あれ?このポーズって…?)

右の手の人差し指と親指で輪が作られている。

ま、まさか…。

「いったぁ!!」

突然走ったオデコの痛みに、オデコの広い見習い天使は飛び起きると額を押さえ呻き声をあげた。

「いつまでも寝ているからだ」

黙っていれば絵画のような美人顔なのに、上官の天使さまはつり目をさらに吊り上げて言い放った。

「ふぇ~ん。何にもしてないのに~」

「ごめんよ、オデコちゃん。ちょっと飛ばしずぎちゃったみたいで…」

あまりの速さに、オデコの広い見習い天使は失神してしまったのである。

「耳が変~っ」

「ツバを飲み込んでごらんよ。そしたら直るからさ」

星の子の言うとおりにオデコの広い見習い天使はやってみた。

すると、ようやくいつもの耳の感じに戻って、安堵の吐息をついた。

「ここ…、どこ…?」

落ち着いて、ようやく辺りを見渡すと、一層見知らぬ部屋であった。

そして上官の天使さまと星の子以外にも、普段話も出来ないような上層の天使さまがいて、オデコの広い見習い天使は背筋を正すと、あわてて立ち上がった。

「この子にはまだ、この任務は無理です」

上官の天使さまは、台座に座る上層の天使さまに向かって言った。

だが、上層の天使さまは、やわらかな表情を変えることなく、うっすらと笑顔を浮かべる。

「これもまたこの子の運命です。そなたが通ってきた道を、この子もまた行く。私たちに出来ることは…」

「…祈ることだけです…」

問いかけに、上官の天使さまは呟く。

そして思いつめた顔を、オデコの広い見習い天使へと向けた。

「これから、新しく天使が生まれる。それを迎えに行くのがお前の任務だ。 朝日が昇るまでにここに必ず戻って来なければならない…。やれるか?お前に」

「…私が…生まれてくる天使を迎えに行くんですか…?」

その重々しい雰囲気に、オデコの広い見習い天使は緊張を覚えた。

「そう、この星の子が案内についていく。今回はお前の順番なのだ」

「順番?」

考えてみたら、同じ年頃の見習い天使はほとんどいなくなっていた。

配置がえなどで、時々大きく移動があって気にとめていなかったが、確かに見なくなっていた。

けれど数人は見習いを終えて天使となってる者もいる。

「任務を終えたら、私はどうなるんですか?」

なかなか上手く出来ない雪降らしの仕事を干されてしまうのだろうか?

また新しい仕事で、いっぱいしかられるんではないだろうか…?

先のことをいっぱい想像して、オデコの広い見習い天使は真っ青になった。

「…先のことより、まずはこの任務だ」

威圧する声音に、オデコの広い見習い天使は首をすくめた。

「さあ…!時は満ちた。行きなさい、そして運命を選び取るのです」

上層の天使さまの声に、大きな扉がゆっくりと開いていった。

まばゆい光が溢れて一瞬目が眩んだ。

光が細長く伸びて、雲のトンネルが作られていく。

「さぁ、オデコちゃん、行こう」

扉の前に進んでいく星の子に、数歩追って行きながら、オデコの広い見習い天使は、後ろにいる不機嫌そうな上官の天使さまを振り返った。

「…わ、私…、頑張ります…っ」

「…お前が思う通りに…迷う時も思うままに決めなさい…」

「上官の天使さま…」

「さっ、オデコちゃん、行くよっ」

「私っ、精一杯やりますっ。だから…行ってきます!」

ものごころついた時から、ずっとこの上官の天使さまの配下であったオデコの広い見習い天使は、はじめて聞いた上官の天使さまのその声音に胸がいっぱいになって、涙を堪えて声を張り上げると扉へと向いた。

ゴッ☆

「いったぁ」

思いっきり間近に浮かんでいた星の子に頭をぶつけて、うめき声を上げた。

「何でそこに…っ、それに頭かったい…っ」

「ごめん、ごめん。だってボクって星だし…」

辺りで一斉に呆れたようにため息が吐かれて、二人は真っ赤になると、

「行ってきます!!」

扉をくぐって雲のトンネルに飛び込んでいった。

 

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『…もしかしたら…あなたも天使だったかもしれない…』


高い、高い空の上に、天使の国がある。

人の目では見えない、大きな雲の上に、天使の暮らす館があるのだ。

そこから、いつも人の世界の幸せを願っているのである。


今日もたくさんの天使が、下で暮らす人々のため、せっせと働いている。

館のある大きな雲から、たくさんの天使がのった小さな船のような雲が四方へ流れていく。

少しオデコの広い見習い天使も、その船のひとつにのりこんでいた。

大事そうに、仕事に使う『雪降らし装置』を両腕に抱えて。

小さな顔は緊張で張り裂けそうなくらいであった。

何故なら、前の日にうっかり氷を下界に落っことしてしまって、上官の天使さまにお小言をもらったばかりなのだ。

見習い天使はため息をもらすと、まだジンジンと痛むオデコをさすった。

少し釣り目の上官の天使さまは、お小言のたび、見習い天使の少しだけ皆より広いオデコにデコピンをするのだ。

(なんで私にだけ、デコピンするんだろう…)

他の子には、そんなことをしない。

もちろん、何度も同じ失敗を繰り返すような子は自分以外にいないのである。

オデコの広い見習い天使は、またひとつ深いため息をついてしまうのであった。


そうしているうちに、今日雪を降らせる目的地についた。

雲の船から、大きな雲にのりうつると、運んできた氷を上官の天使さまの指導のもと、見習い天使たちが運び出していった。

配置につくと、皆、各自持っている『雪降らし装置』に氷をセットして、クルクルと上についているハンドルを回した。

クルクルクル。

カキ氷の器械のような装置の下から、ふわふわした雪が下界へと舞っていく。

日暮れのオレンジ色の空に、そのふわふわした雪が降っていく。

差しかかる西日に溶けずに、見習い天使たちがいっせいに降らせる雪がきらめいて、オデコの広い見習い天使は、あまりの美しさに見とれてしまうのだ。

「手が止まってるよ」

「きゃああっ」

突然後ろから間近に届いた声に、オデコの広い見習い天使はビックリして、思わず持ってた『雪降らし装置』を落っことしてしまった。

「あああーーーっ!!」

自分に羽があることを忘れて叫び声をあげてしまう。

途端に後ろから何かが飛び出して、オデコの広い見習い天使のゆるくウエーブのかかった金髪を一瞬吹き上げていった。

その人は落ちていく『雪降らし装置』をキラキラした光を引きながらキャッチした。

「相変わらず、ドジだね。オデコちゃん」

自分の体とほぼ同じ『雪降らし装置』を両手に下げて、ユラユラと浮かんできて、オデコの広い見習い天使にニヤっと笑って言った。

「だって、急に声かけるんだもん」

星の形をした黄色い顔の星の子であった。

天使ではないが、天使の国に属するものたちである。

「星の子はここで何をしてるの?」

オデコの広い見習い天使は、この面識のある星の子と外で仕事をしているときに会うのははじめてであった。

彼らはいつも天使の国にいて、とくに日暮れの後は、明るく空を照らしたり、伝言を届けたりしているのだ。

ちなみに天使も星の子も固有の名前はない。

上級の天使なら名を持つことを許されるが、その他の天使は役職で呼ばれるしかない。

階級によって衣装が違っていたり、天使といえど、皆、色んな髪型、髪の色をしているので、区別できていた。

星の子はパッと見、どの子も同じ星の形をした顔をしていて区別はつかない。

よくよく見ると、着ている衣装の模様が微妙に違うのだけど、暗い星空にかかる姿は眩しくて、区別はしづらかった。

けれど、オデコの広い見習い天使はこの子が知ってる星の子だとすぐにわかった。

『オデコちゃん』

そう呼ぶ星の子はたったひとりだけだからだ。

たまたま、上官の天使さまにお小言をうけて、裏庭でベソをかいていたのを見られてしまったのである。

なぐさめてくれるのかと思いきや、オデコが赤く腫れあがっているのを面白おかしく大笑いしたのだ。

以来、この星の子は会うたび、

『オデコちゃん』

と呼んでからかうのである。

ついつい、下唇を突き出して、星の子を見上げてしまうオデコの広い見習い天使であった。

「やだな~。ちゃんと拾ってあげたのに、オデコちゃん」

「あなたが声をかけなかったら落とさなかったもん」

オデコの広い見習い天使は『雪降らし装置』を乱暴に奪い取ると大事に抱えた。

「もう夜が来るから、こんなとこで遊んでちゃ駄目でしょ、星の子」

「残念でした、ボクは仕事でここに来てるから大丈夫」

「仕事?」

「うん、そう! ちょっとその器械を置いてくれるかい?」

「これ?」

言われるまま、オデコの広い見習い天使は『雪降らし装置』を転がっていかない内側の雲のところに置いて、
星の子を振り返った。

途端、星の子に手を掴まれて、

「では、一名さま、ご案内」

「えっ??」

「ああああーーーーっ」

流星のごとき速さで、仕事場の雲から飛び出していった。











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