モリの洞窟
モリエールの妄想の洞窟へようこそ
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「それ…、どういうこと…?」
「人の世に生まれることができなかった魂に祝福を与えて天使にしてるんだよ、オデコちゃん」
「たくさんの愛をうけて、生まれる日を待ち望まれてきた魂なんだよ」
「でも死んじゃうなんて…!」
悲鳴が上がって、見習い天使は口を閉じて声が聞こえた部屋をうかがった。
女の人はさっきよりもひどく苦しそうであった。
「オデコちゃん、君もああやって生まれる間近で死んじゃったんだ」
「私が…?」
「前の子と迎えに行ったのは、オデコちゃん、君だったんだよ。考えてみたら、ボクたちって縁が深いよね」
「ええっ!?」
横からの星の子の話に驚いたり、目の前の部屋の様子にハラハラしたり、見習い天使はあまりのめまぐるしさに胸が痛くなってきた。
「昔とかわんないオデコの広さに、あん時は笑いがとまんなかったよ」
「ちょっと、星の子!」
何だか思い出している星の子に、思わずムッとした顔を向けた。
「やめてよ、オデコちゃん。オデコ向けないで」
クックと笑いをかみ締めてる星の子に、鼻息荒く睨みつけて、見習い天使は顔を背けた。
自分がどうやって天使になったのかを知って、ショックで泣き出したい想いは、星の子のとぼけた笑いに幾分か目減りしてしまっていた。
どんなに思い出そうとしても、天使の館で過ごす毎日のことしか思い出せない。
かつて人として生まれようとしていたとは思いもしないことであった。
でも、どうしてそれを今、星の子は話すのだろう。
見習い天使はようやく笑いの収まった星の子へとまた顔を向ける。
「ねぇ、星の子。何で私たちはそんな大切なことを教えられないんだろう…?」
「それはね、オデコちゃん。前もって知ってるより、今それを知って、どう感じるかが大事なんだってさ」
「え~と?」
「その気持ちを、今、生まれようとしている天使に与えるんだ」
「ええ?」
「それはまだだから、楽にしていてよ」
「ああ~、もう、何だかわかんないよ~」
もやもやした想いと、意味のわからない星の子の話に見習い天使は顔をしかめるばかりであった。
低く懸かっていた月は、時間が経つにつれて、徐々に高度をあげて、夜空を明るく照らしはじめた。
まあるく歪みのない満月の夜である。
月に押されるように、先ほどまで空一面に輝いていた星の輝きは薄れてしまっていた。
「下から見上げる月って、やっぱりずっと小さくなるんだね」
見習い天使はいつもよりもずっと小さく見える月を見つめて言った。
大きさは変わっても、美しさは変わることはなく映っていた。
そして月明かりに照らされる家々や林は見習い天使が過ごしている世界とはまるで別世界で、その時を待って、緊張しながらも辺りを見渡してしまうのである。
「今日は満月の夜か…」
「うん、綺麗なまんまるお月様だね」
「満月か…。星明りが見えなくなっちゃったな…」
星の子は顔を曇らせて空を見上げてボソリとつぶやき、その声音に見習い天使は星の子を振り向いた。
「どうかしたの…?」
「ん…いや…」
頭に浮かんだ不安を見せまいと、星の子は顔を振って笑顔を作る。
満月の夜は不思議な力が働きやすいのだ。
月の光に誘われるように目に見えない者が集う。
けれどそのことを見習い天使に告げても、これから起こる事で頭がいっぱいなのに、ただ心配事を増やすだけであろう。
それに考えすぎなのかもしれない。
任務が失敗することは稀な話なのだから…。
目の前の部屋の中の様子があわただしくなった。
そして、白衣を着た人たちが落胆した顔を見合わせ、ベッドに横たわる女の人と、そばに立つ男の人に何かを告げた。
途端に女の人の泣き声があがった。
心を揺する悲しい叫び声が絶え間なく響いた。
PR
HN:
モリエール
性別:
女性
趣味:
妄想