モリの洞窟
モリエールの妄想の洞窟へようこそ
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真っ白い、ふわふわの雲のトンネルを下界へと向けて二人は飛んでいく。
すぐにトンネルは切れて、夜空が広がった。
星々は煌めき、真っ暗な空を彩っている。
そして地上には街の明かりが、空以上の輝きを放っていた。
「すごい綺麗…」
見習い天使にとって、はじめて間近に見る下界である。
いつも雪降らし作業にもっと高いところからちらっと見るだけだったのだ。
地上に集まるそのまばゆい街の明かりは、辺りを遠く見渡すと、あちこちに散らばるようにはるか遠くまで広がっていた。
「ねぇ、星の子。新しく生まれる天使ってどこにいるか知ってるの?」
「もちろん。だってボクは案内をまかされてる」
「じゃあ、帰り道も?」
「あったり前さぁ」
星の子の頼りがいのある様子に、見習い天使はホッと安堵して口元を上げた。
「よかった。だって私、天使の館がどこにあるのか、よくわかんないんだもん」
「えっ!?知らないのっ!?授業で習ってなかった??」
「授業って何?雪を上手に降らせる方法だったら、うん、今はバッチリ」
星の子は見習い天使を、そのつぶらな瞳でキョトンとして見つめ、何度も何度もまばたきをした。
「…うっそ…!前の子はそんなとぼけたこと言わなかったよ」
「前の子?星の子はこういう任務は二回目なの?」
「うん。これが成功したら、ボクは扉をくぐれるんだ」
「?扉? さっきくぐってきた扉のこと?」
「ちがうよ、運命の扉さ。ボクは、やっと、ここまできたんだ。その扉をくぐってボクは生まれかわるんだ」
「星の子、やめちゃうの…?」
鼻息荒く、わくわくした面持ちで話していた星の子は、見習い天使の問いかけに、サッと顔を曇らせた。
「…星の子なんてなるもんじゃないんだ…」
「…どうして…?」
星の子は、悲しい眼差しを地上の光の集まりに向ける。
「ボクたち星の子は…罪びとなんだ。…自分を殺してしまった罪を背負ってる…」
「えっ?」
「人だった時の記憶が…今もボクは持ってる。ほら、あそこの小さな街明かり、あそこに昔ボクは住んでた」
「あの街…?」
星の子が指す方向の小さな光の集まりを見習い天使は目を細めて見つめた。
「どうして自分を殺しちゃったの…?」
「…何でだろ…今となったら、ホントに些細なことで…馬鹿だったなぁって思うよ…」
寂しく呟くと、星の子はかつて住んでいた街明かりを見やる。
「ねぇ、星の子。時間があるなら、あの街に行ってみない?」
「何で?」
「だって、星の子はあの街に住んでたんでしょう?」
「行ったって仕方ないよ。ボクが住んでたのは、もう100年以上も昔の話だもん」
「えっ!?」
「もう、ボクを知っているのは、ボクだけなんだよ、オデコちゃん。お父さんもお母さんも…もう死んじゃった」
「…そうなの…?」
「ボクは星の子になって、ずっとあの街の上で輝いていた」
「毎晩、お母さんがボクを想って泣いているのや、お父さんが休みのたびにボクが使ってた自転車を磨いているのを見てたんだ」
「ボクが死んじゃったから…いつも悲しい顔をしてた…」
急に泣き声が上がり、星の子が顔を向けると、見習い天使が大粒の涙を落としているところであった。
「オデコちゃんまで泣かないでよ」
「だって、星の子も、星の子のお父さんもお母さんもかわいそう…!」
「…もういいんだ。だって悔やんだって、もうどうにもなんないし…」
「それに、ボクはこの任務を無事に終えたら、扉をくぐれるんだ!さあ、行こう、オデコちゃん!」
まるで見習い天使を元気づけるように、星の子は体を一瞬輝かせ、キラキラした光の線を引きながら、見習い天使の前を飛んだ。
見習い天使は涙を拭い、かつて星の子が住んでいたという街明かりを越え、星の子について夜空を飛んでいった。