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モリの洞窟

モリエールの妄想の洞窟へようこそ

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二ヶ月ぶりの更新です^^;

どうしても話が進まず(汗

ようやっと書き進んだものの、読みにくい箇所だらけな気がします。

まだこのエピソードは目標の半分です。

でも、ここを通過しないと、ラストまで行けないので、後ずさりしないためにUPします。

畳んでおきますので、右下からお入り下さいませv

話はいたって暗いのですが^^;

前回の話など含め、はじめから読んでみたいというお方は、リンクにある『小説「天使が生まれる日』をクリックされると、読みやすいページに渡れます。





対峙している死神の姿は掻き消えて、目の前には古い煉瓦の街並みが広がった。

これはどこ…?

白い雪が暗い空から舞い落ちてくる。
寒さは感じない。
でも、心が凍えていた。
すごく寂しい。
始終聞こえていた、お母さんの音が聞こえなくなって、心細いの…。

これはいつの記憶…?
失ってしまった記憶を、いま手の中で抱えているようなそんな心地であった。


見上げる空には、白い翼の見習い天使と、星の子の姿があった。
もの悲しい顔で見下ろしている。

少しツリ目の厳しい眼差しをした見習い天使。
見覚えのある顔立ちをしている。

どこで見たのだろう…。
ああ…、その眼差しは…。

それは上官の天使さまが見習いの頃の姿だ。
そして、隣に並んでいる星の子は、私がよく知っている星の子だ。
星の子は、ひとつめの試練で私を迎えにきたと話していた。

はじめて目にする天界の者たち。
今の自分の心で見るその姿は、とても懐かしく映る。
懐かしくて、胸がざわめく。
同時に、温かい世界から放り出された日の、不安と心細さを思い出す。


そう、これは私が天使として生まれた日の記憶…。



ふわふわと空へと体が浮かんでいく。
上官の天使さまと星の子の顔がどんどん近くに見えてくる。

『待って…、待って…、いかないで…』

背後から、覚えのある声が聞こえてきた。
ゆらゆら揺れる視界の中で、雪の積もっている中にその人は倒れていた。

もう見えないはずの私を、その人は青白い顔に印象的な紫色の瞳で必死な眼差しで見つめていた。
私と同じ色の瞳が、射るように見つめてくる。

『…チビちゃんを…つれていかないで…』

胸に突き刺さる掠れた声が心を通っていった後、視界はまた暗い世界に彩られた。

そして声が響く。

何かに遮られたように、こもった声が聞こえてくる。
何と言っているのかわからないけれど、優しさに満ちた声だった。
その声に呼ばれると、むずむずしていた気持ちがすうっと落ち着いていった。

…これは生まれる前の記憶。
人として生きたほんの10ヶ月に満たない記憶。
暗く何も見えない世界。
温かいそのまどろみは、いつもどこか眠っているような心地よさだった。

トクン、トクン。

胸から聞こえる音とは別に、低く響く音が聞こえている。
これはお母さんの音。
ずっと絶え間なく聞こえてくるこの音は、私を安心させて、いつしか眠気を誘う。

『チビちゃん、聞こえる?お母さんよ』

時折、音に混じって優しい声が聞こえてくる。
返事は返せないけれど、いつも聞こえてくるその声もまた、心地よかった。
暗いまどろみを漂ううちに、ふいにかけられる声に、いつのころからか返事をしたくてたまらなくなってくる。

話をしてみたい。
どうやったら、返事をすることができるの?
動かせない体がもどかしくてむずむずしてくる。

『うわあ、蹴ったわ。ね、今のわかった?すごい動いたの』

お母さんは嬉しそうに誰かに話しかけている。
ボソボソと低い声が穏やかな響きでかすかに聞こえてくる。

これは誰?お父さん?

お母さんの規則的な音を聞きながら、私はまたまどろんでいった。
それは幸せな時間。
温かくて、とても心地よかった。

そうした日々を経て、私はどんどん大きくなっていった。
幸せな気持ちを抱いて。
自分へと与えられる温かな愛情をその身に受けて。

『もうすぐあなたに会えるわね。ね、チビちゃん、どんな名前がいいかしら…』
『男の子かな…?それとも女の子かな…?どんな顔をしてるのかしら…?』
『私に似てるのかな…?それともリチャード?』

問いかけては、くすくすと笑う楽しそうな声がかかる。
もうすぐ私は生まれるらしい。
手を握ったり、体を少しよじったりして、その日を待っていた。
もうすぐお母さんに会える。
それは私にとっても待ち遠しいことだった。

けれどその日が来る前に、突然お母さんの奏でる音が変わりだした。

『そんな…!急にこの町を出るだなんて…!』

大きく何か物音がして、かけられた話し声に、母が立ち上がった。
その突然の動きに、体が大きく揺れた。

『無理よ!どこへ行くの?行く宛てはあるの?これから厳しい冬になるのに!』

ドクン、ドクン、ドクン。

音がとてもはやい。
不安が私にも流れ込んでくる。

『そうよ!だって行けないわ!もう、いつ生まれてもおかしくないのよ!』
『逃げる?どうして?リチャード、だって、あなた、家族はいないって…』
『そんな…、だって行けないわ。この町を離れるだなんて…。私には出来ない…。だって、この町にいれば…、もしかしたら母さんが私を迎えにくるかもしれないんだもの…!』
『囚われてる?あなたになんかわかるわけないわ!どんな想いで私が待ち続けてるかなんて…!』

搾り出すようなお母さんの声の後、またしてもするどい声と大きな音がして、カタンカタンという音が遠ざかっていった。
耳元ではいつもは心地よい響きの音が、今は激しく鳴っている。
聞いているうちに、息苦しいような気持ちになってくる。

何?今のは何の話なの?
私には、お母さんの荒い声しか聞こえてこなかった。
何が起こったの?

「おやおや…。天使を生み出した夫婦が、こんな諍いをしているなんて…」

暗闇の中、すうっと吹き込む冷たい風のような声音に、ぞくりと背筋が波立った。
死神の声だ。

すっかり母のおなかにいる気持ちになっていた見習い天使は、急に届いた声に身を縮めた。

「溢れるほどの愛情を注いだ夫婦。それが天使を生み出す資格らしいのだが…。お前はどうやら特殊らしいな」

特殊?

死神が告げたことに、自分を見るほかの上官の天使たちの顔ぶれを思い出した。
なぜあんなにも穢れたものを見る目つきだったのか。
自分の出生に、何かあるのだろうか…?

「暗がりばかりでは、何もわからないだろう。くっく…、では、お前に私の視点を与えよう」

死神の声が響いた途端、目の前が不意に明るくなった。

ゴーン、ゴーン…。

鐘の音が響いている。
その余韻ある響きは、どこか懐かしい気持ちにさせる。
ぼんやりしていた視界は、思い馳せているうちに見知らぬ街の風景をとらえていた。
開けた視界には、通ってきた街と同じようなレンガ造りの高い建物がひしめき合っている。
今よりもずっと寒い季節なのか、明るい空から雪がはらりはらりと落ちてきている。

「…ほう…。お前の母親はどうやら信心深かったようだ」

真下を歩いているのが、どうやら私のお母さんらしい。
厚手のコートに身を包み、ストールを目深にかぶって、白い小さな顔からは絶えず白い息が漏れているのがわかる。
大きなおなかを抱えるように、その女性は慎重にゆったりとした足どりで積もった雪の中を歩いていく。
そして、鐘の音を鳴らしている高い塔のある建物にたどり着くと、古めかしい大きな扉を開けて、中へと入っていった。
ゆらゆらと漂うように、見習い天使は閉められた扉をすりぬけて後をついていく。

扉の中は天井が高く、ステンドグラスで彩られた窓から入るほのかな明かりで薄暗く、扉からまっすぐに敷かれた緋色の絨毯の先には祭壇があった。
その祭壇には、上層の天使さまに似ている穏やかな像が、微笑みを浮かべた顔をしていた。
遠くに響く鐘の音。
その音以外には物音もなく、室内は静まりきっていた。
そして緋色の絨毯の手前に、その女性はストールを外して跪くと、静かに手を組んで祈りはじめた。

鐘の音はいつしか止み、それでも祈る姿勢を崩さなかった。
次第に、太陽の高さが変わり、ステンドグラスから入る光は角度を変えていった。

何を祈っているのだろう…。
お父さんとの諍いのことなのだろうか。
それとも生まれてくる私のために…?

時折肩をふるわせる女性の姿に、見習い天使は胸がいっぱいになった。
女性を見つめていると、温かい気持ちの他に、切ない気持ちもこみあげてきてしまう。
もし、自分のために願いをかけていたのなら、今こうして天使となっている自分は、その女性の願いを果たせなかったということだ。
沢山の愛情を貰いながら、何も返せないまま、自分は去ってしまったのだから。

ガチャリ。

ギギギィと木が軋む音を立てながら、入ってきた扉がゆっくりと開けられた。
そこから入ってきた光が、すうと伸びて女性の背中を照らし出す。

『マリー。ここに来てたのかい。何度部屋を訪ねてもいないから、心配したよ』

扉から姿を覗かせたやや年配の女性は、女性の姿を見るなりホッと白い息を沢山もらして、そう声をかけた。
声に、マリーと呼ばれた女性は、体ごと向きを直して女性を見上げた。
入る日差しに細められた瞳は、綺麗な紫色をしていた。
白く小さな顔立ちを、栗色の髪の毛がゆるい曲線を所々に見せながら覆っていた。
その姿に、見習い天使は、自分と同じ瞳の色だと思って見つめた。
たまに見る鏡に映る自分の顔立ちと、髪の色を除けばとてもよく似ている。

『こんな暖房もないところに…!風邪を引いたらどうするんだい!もういつ生まれてもおかしくないってのに』
『大家さん、ごめんなさい…。もしかして家賃のことで探してました?』
『こんな事情なのを知ってて、急がせるほど私は悪どくはないよ。さあ、早く立って』

大家さんと呼ばれた大柄な女性は、マリーに近寄ると、節ばって大きな手を差し出して、マリーが立つのを手助けする。

『ここに毎日来てるのかい?』
『…こうして祈ることしかできないから…』

マリーが浮かべる心細げな笑みに、大柄な女性の顔は曇った。

『ったく、一体何があったんだい。あんなに二人で生まれてくる日を待っていたっていうのに…!』

女性はそう苛立ちを含めて、祭壇を睨むように見つめて言った。

『…この街から出られない私が悪いの…』

マリーの消えそうな声音に、女性の顔が哀れを感じて歪む。

『…リチャードはどこへ行ったんだい…?』

恐る恐るそう訊ねられ、マリーは青ざめた顔を横に振った。

『…わからない…。彼はもともとこの街の人ではないから…』

母の瞳には、暗い影が差し込んでいる。
あの言い争いの後、父は出て行ってしまったのか。
この身重の状態で一人になって、不安にならないはずはない。

大柄の女性はマリーの華奢な背中に手をまわすと、ぐっと胸に抱き寄せた。
優しいその所作に、マリーの顔が一層歪んだ。

『あ~あ、何て恩知らずなんだろう…!マリーがいなかったら、行くあてもないまま凍え死にしてたってのに…』
『違うの…。ここの入り口に雪をたくさん積もらせて座っているリチャードを見てたら、母に置いていかれた自分みたいに見えたの』
『…救われたのは、私の方なのに…、行くって言えなかった…』

唇を震わせながら消え入るように言葉をこぼし、涙がはらはらと青白い頬を幾筋も引いて落ちていった。

『…でも…、愛しているのよ…』

母には母の事情があり、父には父の事情があったようだ。
その上、こんな切羽詰った状況に置かれた母のもとを、自分は去ってしまったのだ。
傷つき、不安に揺れる母を、さらに自分は悲しませる存在となってしまったのか。
与えられた愛情を、あの幸せを、返すいと間もなく去ってしまった。
自分が運んでいる小さな天使と同じように。
今もこうして、ただ過ぎてしまった時を覗くだけで、母のために自分は何もしてあげられない。
涙を拭いてあげることも、手を握ってあげることも、そんな小さなことさえしてあげられない。

(ごめんなさい…)

見習い天使は、こみあげる嗚咽をただ堪えるばかりであった。


部屋の中に入る光もなくなり、すっかり暗くなったことに気づいた大家さんに背を押されるようにして、マリーは帰路についた。
古びたレンガの街並みを、雪を踏みしめて二人は並んで歩いていく。
暗くなりかけた空からは、絶え間なく雪が舞っていた。
寂しいくらい静かに、白い雪が降っていた。



「マリー、月末に一階の部屋が空くから、そこに移らないかい?」

アパートの二階へと外にある階段を登ろうとしていたマリーに、大家さんが声をかけた。

「大丈夫よ。今はおなかが大きくてちょっと大変だけど、もう少しのことだし」
「部屋からの眺めは、裏庭向いてて確かに悪いんだけどさ、階段はやっぱり危ないからね、これからのことも考えないと」
「ありがとう、考えておきます」

小さく微笑んで、タン、タンと音を響かせ、一歩一歩を用心深く踏みしめるようにして、マリーは段を上がっていく。
鉄筋の階段には雪が積もっていて、大家さんは登っていくマリーの姿を心配そうに見上げていた。

階段に面した部屋の明かりが灯って、それを見届けてから、女性は寒さにぶるりと体を震わせて、自分の部屋へと入っていった。

 

 

 

 

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