モリの洞窟
モリエールの妄想の洞窟へようこそ
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路地裏から出て、見習い天使を先頭に歩道を行く。
街は寝静まり、街灯のオレンジ色の明かりが平坦で少し湾曲した通りを薄暗いながらも照らし出していた。
人気のないその道を、やはり死人形たちが徘徊していた。
見えていない。
そう思っていても警戒してしまう。
さっきも結界の中にいたというのに、空を飛ぶ死人形はそこにいることに気がついたのだ。
知らず大声をあげてしまったのだろうか?
見習い天使はあちこち不安そうに見やって歩いていた。
「こっちでいいんだな?」
黒い翼をしまって、一見普通に人間に見える悪魔が斜め後ろについてきていた。
闇色の髪の毛から角が出ている以上、普通とはいえないけれど。
そしてパタパタと羽音を立ててコウモリもついてくる。
奇妙な一団であった
「うん。星の子はこの街を越えていこうとしてたんだと思うの…。まずはこの街から離れて、明るくないところから目印を探さないと」
「目印ってなんじゃ?」
「青く光る星のところに、天使の館に戻る雲のトンネルがあるんだって」
「しっかし、来るときどうやって来たんじゃ?来た道を戻るだけじゃろ?」
「移動しているんだって、星の子が言ってた」
「ふ~ん…」
悪魔が考え込むようにつぶやいた時だった。
ちょうど通りがかったパブと書かれた看板のしたの扉が大きな音を立てて開き、見習い天使は驚いて後ろに仰け反った。
中から放り出されるように、中年の男性が転がり出てきて、レンガ敷きの歩道に横たわった。
その人間はすぐに起き上がり、店の中に聞こえるように暴言を吐いた。
「…これが酔っ払いというんじゃ」
呆れるようにコウモリは見習い天使にささやく。
かなりの酒を飲んでいるようで、ろれつの回らない口調で大声で叫び、閉められた扉が開かないことに、チッと舌を鳴らすとよろめく体で一団に向かって歩いてきた。
見習い天使はあわてて道を譲った。
天使も悪魔も見えていない人間は、目線の合わない顔つきで、間をくぐっていった。
「本当に見えてないんだね…」
不思議な感じであった。
その人間の後ろ姿を見送っていたところ、路地からぬっと出てきた死人形とその人間がぶつかるのを見た。
「あっ!」
まるで実態のないもののように、死人形の体を人間は通り過ぎていった。
死人形の方も、まるで気にとめていない様子で、そのまま通りを横切っていく。
「あ!」
人間は数歩進んで、崩れるように膝をついた。
「あの人、大丈夫!?」
「生体エネルギーを少し吸い取られたんだろう。すぐ元に戻る」
悪魔が話した通りに、見ているうちに、人間は立ち上がり、またヨロヨロした足どりで通りを去っていった。
「動いている以上、ハラが減るってことじゃな」
コウモリはそう言って、見習い天使の頭の上にのった。
「や~だ。何で頭にのるの~?」
「ふん。飛んでるとハラが減るからじゃ」
「私じゃなくって、お仲間のとこにとまってよ」
見習い天使は片手でコウモリを払い、宙に浮くコウモリに向かって言った。
「や。ジイは仲間じゃないし」
「ひどっ!」
「ジジイ扱いするくせに、冷たいんじゃよ」
「文句言ってないで、さっさといけ、デコジイ」
「やっ!?一緒にした!!」
「うわ!センス最低じゃ」
まるで隠れるように、またコウモリは見習い天使の頭にのっかり、ふわふわしている金髪をかきあげた。
「やっ!?何するの!?」
「消されないために、隠れてるんじゃ」
「全然隠れてないし。その髪ごと消してしまおうか?」
悪魔は冷酷な眼差しを向けていて、パチンと尖った指先を鳴らした。
「やっ!?髪の毛消されるのはいやあああ」
見習い天使は禿げになった自分を想像し、真っ青になって、コウモリをのっけたままレンガ敷きの通りをひた走った。
「おや、結構足が速いんだな」
悪魔は口端に長い犬歯をチラっと覗かせると、軽快な大股で後を追っていった。