モリの洞窟
モリエールの妄想の洞窟へようこそ
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妄想学園小話。
これは『Boy's School Baton』という自分をモデルに男子生徒にした設定を使って書いた小説です。
とはいえ、ほとんど私の妄想で話は進んでいきます。
餌食となってしまった、タルチさん、Nyutoさん、しゃちほこ堂さん、どうもごちそう様でしたv
登場人物は以下の通りです。
モリエール:森えいる
タルチさん:谷地 雪
Nyutoさん:東 新矢
しゃちほこ堂さん:堂 ○○(あだ名シャチョー)
文中での敬称略をお許しくださいませv
続きを書いて、今までのをひとつにまとめてみたので、大層長いのでたたんで置きます。
キーンこーんカーン
妄想学園小話がはじまるよv
第1話 ≪保健室にて≫
ここは妄想学園。
敷地内には小・中・高の学部がみっちりとひしめきあっている、いわゆるエスカレーター式の私立学園である。
高等部の校舎の保健室には、常連となっている谷地 雪は、今日も天気の良さに気分を害して、6時限目の授業を受けずに静まりきった保健室で過ごしていた。
いつものことだと、保健医は用で席を外している。
クーラーも効いてて、とても過ごしやすい環境で一眠りした雪は具合の悪さはすっかり治まっていた。
白い糊のきいたシーツの敷かれたベッドから体を起こし、緩めていたシャツの襟元を正す。
風紀委員である彼は、いつも与えられた制服をきちんと着こなすのが習慣であった。
午後の強い日差しが窓にかかっている白いカーテンを透かして、少し開いている窓から入る風が、そのカーテンをゆるやかに動かしていた。
「さあて、そろそろ教室にもどろか…」
つぶやくように言うと、ベッドから足を下ろした。
「……?」
不意に目線を向けた窓の向こうに、何やら真っ黒でちょびちょび髪がはねてる頭がうろうろしている。
何だろうとカーテンを引いて窓を開けてみたら、メガネをかけた体操着姿の中坊が鼻血たらした顔で、しかも拭ったのか血が広がったばっちい顔で、救いをもとめる目でそこにいた。
「うおお、人いた!兄ちゃん、ティッシュ持ってない?」
「あるよ。それにここ保健室だから、ガーゼもあるよ」
「わ、やった。えっと保健の先生は?」
「今いないよ」
「よかった。保健の先生苦手なんだよね」
メガネの少年は、心底安心した顔つきとなった。
「じゃあ、すぐ並びに出入り口あるのわかる?」
「うん」
「今開けるから、そこから入ってきて」
雪が指で示す先を、少年も見る。
すぐにその戸口に掛かっている鍵を開けて、少年を中へと招いた。
キョロキョロと不審そうな顔つきで、自分が履いていた靴を片方ずつ手に持って上がってくる。
靴を置き、戸口を閉めて、カーテンを閉めた。
「どうしたの?何か悪いことしてる人みたいやな~」
「えっ!?やっ、ほ、ほらここ高等部だし」
「あ、そういやそうだね。何で中等部の保健室に行かなかったの?」
「え! あ~、今までここの体育館でバレーやってたの」
「ここの?」
バレーと聞いて、雪の目が少年を頭からつま先までスクロールする。
確かに膝には青あざがいっぱいある。
古いのから新しいのまであるために、紫陽花みたいに色が斑になってしまっている。
「膝、それ大丈夫なの?」
「うん。いつものこと」
「サポーターしないの?」
「うん。邪魔っけだし」
質問に返事はするものの、少年は入り口ばかり気にしている。
「この時間は職員室に行ってて、すぐは来ないよ。それにしても何で苦手なの?先生優しいよ」
「あんまり保健室に来る用がないし、それに入りにくいし~」
どうも白衣を着ている人は苦手なのだ。
言わないまでも、顔にありありと出ている。
雪は苦笑いを浮かべると、少年に座るように椅子を示した。
指で鼻を押さえながら、こくこく必要以上に頷いて、少年は言うとおり大人しく従うのであった。
面倒見の良さそうな雪に、すっかりほっとした顔となっている。
少年は森えいる。
中等部のバレー部所属である。
基本的に練習が嫌いな男である。
試合形式でのバレーは好きだけど、走ったり基礎運動するのは嫌いなのである。
しかも中等部の顧問が不在なために、高等部で合同訓練中であった。
体力のある高等部の部員が混在しているために、いつもよりもはるかに練習がしつこい。
しかも外は快適を欠く晴天である。
はっきりいって地獄。
元々鼻の粘膜の弱いえいる。
ちょっとした特技だ。
これだけ暑いと一突きで効果てき面。
のぼせて出た鼻血なのか、ほじってて出た鼻血なのかは、ぜひとも聞かないでやってください。
「にいちゃん、ティッシュくれたら自分でするよ」
「駄目だよ。まだ出てきそうだから、しっかりと止めないと」
黒い円座の回転イスにえいるを座らせると、雪は青白い顔に笑顔を浮かべて、手馴れた様子で戸棚を開けてガーゼを出してきた。
「にいちゃん、もしかして保健係?」
「いや。よくここで休んでるから、どこに何があるかくわしいだけだよ」
「へえ~。白衣着たら、保健の先生に見えるよ」
「おおきに。はい、じゃあ顔上げて」
えいるの前に机のイスを引き出して、向かい合うように座ると、えいるの低い鼻の穴の奥をじ~と雪は見つめた。
「ああ~、まだ出てるねえ、鼻血」
「うん、結構しつこいんだよね」
出始めるとなかなか止まらないのが、時にやっかいなえいるの鼻血。
じっと見つめてくる目線に、えいるの目線が右往左往する。
「どうしたの?」
「鼻血がたれてきた感じがするから、早くつっぺして」
「はい、じゃあ詰めるよ」
じっと見られるのがどうも苦手なえいるである。
校則さえなければ、もっと前髪を長くして、覆いたいくらいなのである。
ぎゅっぎゅう。
ピンセットを用いて、ガーゼをどんどこ詰めていく。
「ふごお。に、にいちゃん、も、もういいよ」
「いやいや、しっかりと詰めて圧迫しておかないと」
「僕は谷地 雪。君の名前は?」
「ふご。ふがが」
「ん?あぁ、ごめんね。これじゃ答えられないよね」
「ぷはっ!森 えいるだよ。えいる」
「へぇ~、えいる君。いい名前だね」
雪は天使の笑顔よろしく、微笑みつつガーゼを更に詰め詰め。
「むごっ!!も、ムリ!!鼻がミリミリ言ってる!!雪にいちゃん勘弁してよ~」
えいるはもう涙目になっているが、雪の手はちっともゆるまない。
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと詰めとかないとね。また出たら困るでしょ?」
「ふごぁぁ~」
(ふふ、けったいな子やなぁ。エエおもちゃ見つけたわ~vv)
などと親切面の下で考えている雪である。
まるで研究者のように、雪の目がらんらんとしている。
片や、されるがままのえいるは、捕らえられた宇宙人のごとくなすがままになっている。
「も、いっぱい!入んない、やばいって!」
「いや、まだイケる、やばくない。おこしやす~っていうてはる」
「言うてない、誰も言うてない!」
大きく顔を振るえいるの顔を、長い指の手でがっちり押さえる。
両頬を挟まれて、えいるの唇が突き出して、至極みじめな顔となっていた。
「いや、この鼻が、まだ詰めとくれって、言うてはる」
「駄目って鼻が言ってるよ!」
「いや、聞こえないけどなあ」
「もう、鼻の穴が、みしみしいってる!」
「聞こえないけどなあ」
「うおおお、にいちゃん、もう堪忍して~!」
もの優しげな雪にいさんの思いがけない介抱に、悲鳴を上げるえいるであった。
おかしい。
あんなに優しそうな顔をしていたのに…!
雪さんのどS丸出し介抱に、高等部の恐ろしさを体験するえいるであった。
合掌。
*タルチさん、どうもすいませんでした><
タルチさんの文章拝借して追加してしまいました><
第2話 ≪買い出し≫
キ~ンこ~んカ~ン
妄想学園小話がはじまるよv
保健室でガーゼをめいっぱい鼻に詰めてもらって、かっこ悪い顔のまま、えいるは高等部の玄関を通り過ぎた。
今だガーゼの詰まった鼻がジリジリと痛い。
あれほどギラギラした目つきでガーゼを詰めていた雪というにいさんは、処置が終るとひどく満足した顔で、別れ際には気持ちいいくらいの表情で、手を振ってくれた。
玄関の階段に、茶髪のにいちゃんが座って膝に顔を伏せている。
色の白いにいちゃんである。
雪にいちゃんも色白だったけど、このにいちゃんも肌白いなあ、とじろじろ。
なにぶん高等部の玄関はあまり通らないから、顔に出さなくても興味深々。
ただ座ってるにしてはちょっと様子が変かも。
えいるはそ~っと寄ってみた。
「にいちゃん、具合悪いんだったら保健室行く?今先生いないけど、優しい兄ちゃんがいるよ」
「…チョコ」
「は?」
「血が足りねえから、チョコ」
「え…、自分、50円しか持ってないけど」
ジャージのポッケを探るえいる。
かろうじて50円玉が無造作に入っている。
「チロルチョコなら5個買える…」
何だと!?
「前払い」
「現物見てから後払い」
東にいちゃんの雰囲気に押され、学園外の商店までダッシュするえいるであった。
急げえいる。
東にいちゃんがとけちゃうぞ。
というか、買ってきて、本人いなくなってたら泣ける。
半ば泣きそうな顔で、必死こいて走っていったのである。
新矢にいちゃんのすごみが効いたか、一心不乱に商店を目指すえいる。
学園の周りをまだ走って練習しているチームメイトにかち合ったらどうしよう。
走りながら、だんだん挙動不審な顔つきになっていく。
一歩家から出ると内弁慶のえいるは、自分以外のチームメイトは皆は妙に迫力があって、面と向かうと何も言えなくなってしまう性分なのである。
気楽に休むと言い出せず、病欠の道しか彼が気兼ねなく休める方法がなかったりする。
今日は暑さも相まって、Tシャツを汚すほどの大量出血に、内心ビビリながらも脱出するに至った。
サボリやがって。
そんな顔で見ている者は誰もいなかった。
観察力のするどい人がその場にいたら、えいるの右手の人差し指の爪に血がこびりついていたことに気づいたかもしれないが。
とにかく、気の毒そうな顔をしていた皆に、今のこの姿ははっきりいって知られるわけにはいかないのである。
恐れていた人影を見つけることなく、この学園ご用達の商店にたどり着いたえいるであった。
ガラリ。
ガラス張りの立て付けの悪い扉を開けて店内へと入る。
どうみても平成の世に追いつかなかった風をかもす店内である。
レジの後ろの壁には、歴代コーラの空き缶が年代別に並べてあった。
下ろすのが怖いくらい灰色の埃がのっているのが、目が悪いえいるにもハッキリと見て取れる。
薄暗い店内には、どこで仕入れているのか、駄菓子の他に、学生にお役立ちの文房具はもちろんのこと、なんちゃって風のグッズとか、ためになりそうにないアイデア商品とかも置かれていた。
今日は火曜日。
店の入り口にある書棚に、えいるの目線は向かう。
うっかり昨日見れなかった週刊少年マンガが気になった。
発売日を一日過ぎて、案の定本の山はない。
書棚の前にひとりで立ち読みしている少年のせいで、本があるのかもわからない。
もちろん、50円しか所持金のないえいるに、それを買うことなどできないが、いつも読んでいる連載の続きが非常に気になった。
人が二人しか並べない小さな書棚。
えいるは息を荒げながら、その少年の隣に並んだ。
目的の本は書棚になかった。
「売り切れかよ~…」
えいるのがっかりした声に、本を読んでいた少年が顔を上げた。
背は低いけど、制服は高校生のものだ。
怪訝そうにえいるを見て、また読んでいた本に目線を落とした。
読んでいるのは、この書棚にある最後の週刊少年マンガ。
えいるは息を飲んだ。
この人が読み終われば、ちらっと立ち読みが叶う。
古めかしい店内には気のきいたBGMなんて流れてはいない。
少年がページをめくる紙の音と、えいるがつばを飲み下す音と、すする鼻音が交互に聞こえるばかりだ。
少年の読書は、いつまでも続く。
えいるには待っている時間の猶予はない。
かといって、読みたいところだけ見せろとはさすがに言い出せない。
あきらめて、チョコが置いてある棚に行こうと決めたとき、いつも読んでいる連載ページが開かれた。
思わず身を乗り出すえいる。
途端にマンガはパタリと閉じられた。
「!?」
「読みたいか?」
自分よりも下の方にある目がにやっと笑った。
とはいえ、自分よりも年上だ。
えいるはカクカクとプライドもなく頭を上下に揺らした。
「コーン!!」
「なっ!?」
週刊少年マンガを片手に持ったまま、グリコにいさんもビックリなポーズをとったのだ。
しかも空いてる指でキツネをかたどっている。
何だ、これはいったいなんのポーズだ!?
目を泳がすように、自分を見据えているえいるの姿を、少年は冷めた目つきで見つめていた。
「んじゃ」
ポーズを解除すると、少年はマンガを小脇に抱えてレジへと向いた。
買っちゃうのかよ!
えいるはあせった。
もう少しで読めたのに。
今週の話が読めないままになってしまう。
「待って!も、もっかい」
「ふふふ…、いいだろう中坊」
不敵な笑みを浮かべて、少年は振り返る。
狭くてうす暗い店内で二人は向かい合った。
「コーン!」
少年はまたしてもなぞのキツネポーズをとった。
どう答えたらいいのか…。
ダラダラと汗が頬を伝っていく。
「こ…コーン」
吹けば飛ぶような情けない声をあげ、えいるは少年と同じポーズをとった。
「……」
店内は沈黙で満ちた。
少年はえいるを上から下までじっくり見ると、満足そうに笑い、ポーズを解いた。
「シャチョーって言うんだ、お前なんていうの?」
「えいる」
少年はニコニコと親しみぶかい笑顔を浮かべ、キツネ手でコツコツと力加減なしで、えいるの頭をこずいた。
「本…」
「おお、あれな、ライバルの○○が出てきて、助けられちゃったよ」
「ふぉお」
バレをありがとう、シャチョー…。
えいるは心の中で泣いた。
「おっ、どうした少年。何だよ、ヘソ曲げちゃったの?」
店のおばあちゃんに本の代金を支払いながら、シャチョーはすっかり黙りこくったえいるを見ながら声をかけてくる。
「……」
冷めた目線を送るだけで、えいるは駄菓子の棚を探した。
50円で買えるチョコ。
そう、自分は今、この店に来た目的は、血液欠乏のにいさんのためにチョコを買いに来たのである。
急がないと、何をされるかわからない。
ちょっと目が鋭かった←日差しがきつかったから目を細めていただけです
あの掠れた声で厳しいこと言われたら、きっと夜眠れなくなる。
小箱の前に書かれた値段札を見ながら、棚を目を皿にして探す。
銘柄を指定していた
チロル、チロル…。
「んあ?ないよ?」
個人的に、串カツの入った容器に目がいってしまったのだが、こんなの買ったらチョコは買えなくなる。
名残り惜しく目を離し、背後の棚へも目を向けた。
「だめだ。足りないよ~」
背後の棚にある板チョコに、ポッキーなんかは50円では絶対買えない値段である。
「何?お前、何探してんの?」
ニヤニヤと笑いながら、シャチョーが首を伸ばして訊いてくる。
「チョコ」
「チョコ?いっぱいあんじゃん」
「チロル、探してる」
「後ろの棚じゃね?」
「ねんだもん」
言われてシャチョーは自分の目で、もう一回しっかりと目で探した。
確かにチロルはない。
「あれ?前にオレ買ったことあるけど、おっかしいなぁ」
何種類もあるチロルがまったくないのは珍しい。
「ばあちゃん、チロルないの?」
まるでこの店の主の孫のごとく、まったく遠慮なくシャチョーは訊ねる。
店と同化して、レジ以外にはいるのも忘れそうな雰囲気の店主は、噂だと80を越えているらしい。
皺だらけの顔を傾けて、しばし考える姿勢となった。
シャチョーとえいるは、黙って返事を待った。
「ああ…。この前、七夕に使ったんだっけ」
ハロウィンよろしくお菓子をもらうために練り歩く行事だ。
お菓子屋さんは町内の子に狙われる。
店主は、曲がった腰を重そうに上げると、立ってもたいして高さが変わらないまま、奥の自宅へと入っていった。
「チョコ残ってるかな」
「あんじゃね。この辺りって、あんま小さい子供見ないぞ」
「ちょっと運ぶの手伝って」
中からの呼び出しに、二人は靴を脱いで店主の自宅への戸口をくぐった。
「よかったな。とりあえず選べるだけある」
レジの精算するところに並んだチロルの箱を見つめて、シャチョーが言った。
「うん」
それぞれの箱には5個から10個くらい残っていた。
種類はある。
ミルク
コーヒーヌガー
ビスケット
アーモンド
ホワイト&クッキー
いちごショートケーキ
あるのはこの6種類だ。
だが、ポケットには50円玉がたったのひとつ。
昼までなら、200円持っていた。
ペットボトルのドリンクを買ったから、残った50円だ。
「う~~ん…」
非常に悩む。
自分が食べるものじゃないから、尚更悩む。
「何、悩むことある?」
「いや、買い出し頼まれてきたからさ」
「悩むもなにも、全部一個ずつ買えばいいじゃん」
さらっと言うシャチョーに、えいるはポケットから、さっきから握りっぱなしの50円玉を出して見せた。
「自分、持ってるのこれだけ」
「…貧しいな」
「悪かったな」
面と向かって、さらっと言われると、切なくなる。
ほっぺが熱くなるのを感じて、頭をわしわしえいるは掻き毟る。
「チョコ頼まれたんだろ?チョコの量の多そうなのにすれば?」
「確かに…」
チョコの量を考えるなら、アーモンドだろう。
えいるはアメリカ国旗っぽいデザインのをひとつとった。
「あ、でも、人によっちゃナッツにアレルギーあるって言うよな」
「げ…」
またさらっと言われて、えいるは思わず箱に落とした。
「それに、何でお前、ミルクの選ばないの?」
「え?」
シャチョーは、見事無視された牛のデザイン入りのチョコを指差した。
「ミルクって、ミルクチョコだろ?」
「え~…。チロルって言ったら変わった味のを普通食べない?」
「まあ…、確かに、そうかも…」
「だよねえ」
二人はまた並んでいる箱のチョコを凝視しはじめた。
「頼んだヤツって、どんな感じの人?」
「え…?さっき会ったばかりだから、よくわかんない」
「わかんないのに、頼まれてんの?じゃあ、好みの買ってけばいいじゃん」
えいるは、先ほど玄関で臥せってた少年の姿を思い浮かべていた。
「イメージは寒色系…」
「は?」
「イメージだよ」
えいるはピンク色のいちごショートをのぞいた5個を拾い上げて、店主に精算を頼んだ。
「1個20円だから、100円だよ」
「何!?あ~と、チロルって1個10円じゃなかった?」
ほら、とばかりに、小箱のたたんであった上蓋をめくり返した。
「うえ…確かに一個20円」
しっかり書いてあった。
消費税をとられないだけ良心的な商店なのだが、さすがに金額を負けてはくれそうにない。
「お前が持ってる50円じゃ、2個買うのでいっぱいだな」
「言わなくてもわかるって」
2個か…。
あの人、5個来るの待ってるのだろうか…。
少なかったら怒られる?
いや、50円しか持ってないのを知ってるから、攻めたりしないよね。
とにかく消去法で、5個から2個にしないといけない。
あの人のイメージはブルー系だ。
思い込むように、えいるは水色の水玉模様の包みのビスケットとアーモンドのふたつを手にとった。
「へ~、それにするんだ…」
「悪い?」
「悪いなんて言ってないじゃんか」
ヘラヘラとシャチョーは笑い、えいるが手放した、いちごショートとミルクを掴んだ。
「オレも買ってこっと」
おつりの10円をポケットにしまうと、えいるはまた学園へと走り出した。
その後ろを週刊少年マンガを抱えたシャチョーが追ってくる。
「何でついてくんのー?」
「いや、だって面白そうだから」
「他人事だと思って」
「お前、頼んだヤツ居なかったらどうすんの?」
「……」
それは困る。
自分で食べれば済むことだけど。
根っからのケチなえいるには、ちょっと悲しい事態だ。
高等部の校門を抜けて、二人は走っていく。
中等部の体操着は高等部とは違う色だから、妙に目立つ。
どこかでランニングしているバレー部員に見つからないことを願いつつえいるは駆けた。
「いない…」
危惧したように、あの少年の姿が玄関の段々にはいなかった。
「え。いないの?」
息切れしたのか、ハアハア言いながらシャチョーも辺りを見回した。
座り込んでいる人は確かにいない。
「おーそーいー…」
その時、背後の茂みから掠れた声が間延びして聞こえてきた。
二人は慌てて振り返る。
春には桜の花で華やかになる、今は単なる新緑の葉っぱをたたえた木の下に、死にそうな雰囲気でその人は座り込んでいた。
「あれ?しんちゃん」
「誰?」
シャチョーの顔見知り発言に、新矢は不審そうな目つきで返してきた。
これは切ない…。
片方が知ってるのに、知られてないのは悲しい。
「オレだよ、オレ」
「詐欺?」
「ちっがーう!」
「ガイジン…さん?」
確かに今の音程はガイジンぽかった。
二人の噛み合わないやり取りが、漫才みたいで、えいるはツボを突かれ、肩が震えた。
でもここで笑ったらすまきにされてしまいそうだ。
なので、必死に笑いを殺す。
目を細めて不快そうに見ていた新矢は、胸ポケットからたたんでいたメガネを取り出してかけた。
「何だ、シャッチョーか」
「何だはないじゃん。それに発音変だし」
「いいじゃんかー…。それより、チョコだせ、中坊」
シャチョーの後ろに立っているえいるに気づくと、新矢は顎でえいるを呼んだ。
だるそうな雰囲気は、メガネかけて二割増した気がする。
恐る恐るチョコの入った袋を差し出した。
「……」
あ、中身、二回見た。
どうやら信じられなかったみたいだ。
「これで50円分かよ」
不満そうだ。
でも事実だ。
「チロル1個20円だった」
「マジ…?」
「うん」
がっかりした顔で手の平に出した2個のチロルを見下ろす新矢であった。
「高いか?」
シャチョーが隣に座り込んで新矢に訊ねる。
「だってさ、100均でも売ってるのにさ、チロル10個入りで105円。おかしくね?」
「100均とばあちゃんの店じゃ違うだろ。生活かかってんだもん」
「かかってるか?年金暮らしでしょが」
「え~、今日も貢献してきたのにん」
シャチョーは持っている週刊少年マンガをパラパラとめくった。
新矢は半目で見るだけで、別にマンガには興味ないようだ。
「後で読ませて」
その顔つきで興味あんのか!?
ちょっと驚いた。
同級生にはいないクールさだ。
「あ、そうだ、オレもチロル買ってきたんだけど、見る?」
いそいそとシャチョーが袋を取り出して、新矢の前で手の平にチョコを出した。
じ~っと種類の違うチロルを見つめる新矢。
何となく、緊張がただよう時間が流れていく。
「あ、それ食べたい」
あ!いちごショート掴んだ!
「ああ!駄目だよ、それオレの好物」
「ならいただき」
シャチョーが伸ばした顔を肘で押さえながら、無表情で新矢は包みを開いて口に入れた。
「もう返せない」
「おいいいい!」
何だろうこれ、食物連鎖の図みたいだ。
シャチョーが振り回されてるのが、ちょっと見てて心地いい。
「おい、中坊。ここ来て、手を出せ」
新矢にそう言われて、嘆いているシャチョーを前に屈んだ。
「ビスケット嫌いだから、こっちは返すわ。だから20円な」
チャリン、チャリンと10円玉が二枚手の平に落ちてきた。
マジっすか、新矢にいちゃん。
まさか出来高だとは思わなかったよ。
えいるの顔はピクピクと引き攣るのであった。
<おしまい>
ということで、にゅとさん、しゃちさん、文中の敬称略も含めてすいませんでした><
ここまで長々と読破ありがとうございました。
色々ひどい新矢が、自分の分身ながらそんなんですよねって申し訳なくなりました。笑。
しゃちょーさんとの絡みとかメガネ設定とか上手いなぁと思って感動しちゃいました///。
しかもいちごショート昨日食べたんですよね。笑。モリエールさんに私の中身がもろバレしているような気がして怖かったですw
マンガもそんな感じです^^;。そこまで興味ないけどちょっと気になるので後で見せてもらうみたいなw。
すごいなぁモリエールさん´`///。とてもおもしろい素敵な小説ありがとうございました^^*。
VS、リーダーされるとのことで!!@@///。今期も楽しみにしてます!頑張って下さいませー^^*。
爆笑ありがとうございます////
や~、どうもひどい扱いになってしまって><;
オチのために新矢くんを無情な人にしてしまったです;;ホントすいません
書いてる方は、のりだしたらすっごく面白かったですv特にシャチョー君と新矢君の掛け合いとかw
昼間に、前に買ったチロルの大袋を広げて、つまみながら、にゅとさんどの味好きなんだろうと結構真剣に考えていたのですよ!
非常にタイムリーにいちごショート食べてたんですか(笑)そ、そんな怖かったって;;w
キャラの中身は崩壊しちゃった気がしてならないのですが、楽しく読んでもらえたら、書いてよかったなって思いました^^にへにへ
そうなんです、何をとち狂ったのかリーダーやってしまいました><;
応援ありがとうございます^^*
よかったらまたにゅとさんも参戦…v
浸かると楽しいのですよ、VSの湯(笑)
ご来洞窟ありがとうございましたv
*うっかり新矢君の名前間違ってて、訂正してあります><;