モリの洞窟
モリエールの妄想の洞窟へようこそ
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短いのですが、この後の展開がまだ読み切れてないので、キリのいいところまでをUP。
笑いどころのない苦い話ですが、気になる方はどうぞv
第1話ほどの長さではないんですが、だらーっと長くなるので、続きに綴ります^^
ニアミスという絵とそれに合わせて書いた小説をwikiにUPしてます。
そっちは面白おかしいので、読んでみて下さい^^b
【戦隊・悪役企画】 ←入り口です。
【拍手御礼】
前記事に拍手ありがとうございましたv
【ナルシス邂逅(第2話)】
「よーう、連れてきたぜ」
ドサリ。
どこかの建物に入るなり、乱暴に床に落とされて、袋の中で痛みに思わず呻き声を上げた。。
「おい、売るつもりなら、乱暴に扱うな」
重みのある靴音が近づいてきて、袋の中で息を飲んだ。
「あはは、悪い。さっそく見てくれ」
袋から出され猿轡をはずされて、室内を見回す暇もなく、見知らぬ男に値踏みする目でじっと見つめられた。
口ひげを生やした強面の年配の人物が凝視する中、その背後には、自分を連れてきた2人の男が媚びる笑顔を貼り付けて立っていた。
「…確かに綺麗な顔立ちだが、かなり汚いなあ…」
毛深い手で顎を掴まれ、声を上げる間もなく顔を繁々と見つめられる。
「洗えば綺麗になるはずだろ」
「それに匂うな」
「スラムで暮してんだから仕方ないさ」
「お前、年はいくつだ?名前は?」
そう問われて、思わずまばたきした。
今までそれが必要になったことがないため、考えたこともない事柄だったからだ。
「…コイツ、しゃべれないんじゃないのか?」
話に返事をしないことに、店主はジロリと2人組を見やった。
「そんなはずは…。だってさっきだって悲鳴を上げてたろ?」
「怯えてるだけだって。さ、早く値段の交渉といこうぜ」
難しい顔をしている店主を急かす2人だ。
「ちっ。調子いいなお前たち」
「へっ、人売りの仲介屋に言われたくないぜ」
そうして三人は普段店主がいるであろう場所に移って交渉をはじめた。
金を多く得たい二人と、支払いは少なく済ませたい店主のやりとりが続く。
賑やかな音楽と話し声が響く中、三人から目線は部屋の中へと移っていく。
逃げるタイミングがあったとしても、ここから出られなければ意味がないのだ。
出口と思われる場所はその向こうにあった。
壁には窓などなく、ベタベタと様々なポスターが貼られている。
破けたポスターの上に更に重ねてあって、元の壁の模様すらわからない有様だ。
猿轡は外されたものの、手は後ろで縛られたままだ。
そっと静かに立ち上がり、辺りを見回した。
あまり広くもない室内で、すぐ横にはイスやテーブルが置かれたスペースがあり、紫やピンクの照明が雑多なポスターの壁を照らし出して怪しい雰囲気をかもしていた。
そのスペースの向こうに、更に廊下が続いている。
小さな明かりが奥行きをかもしている。
もしかしたら、他にも出口があるのかもしれない。
気づかれないよう男たちの様子を伺いながら、薄暗い部屋を横切り廊下へと向かった。
廊下に出ると、思わず息を飲んだ。
扉の代わりに鉄格子のはまったいくつもの部屋が連なっていた。
まるで牢屋のようである。
部屋からは音楽がけたたましく鳴り響き、甲高く唸る声が部屋から漏れ聞こえていた。
思わず身震いするような普段耳にしたことのない声だ。
そして、廊下の奥は行き止まりの壁でしかなかった。
他に逃げ場はないかと見回すが、ただの扉のついた部屋などなかった。
やはり出口は三人の向こうにしかないようなのだ。
「ちょっと、アンタ」
気だるい声に呼び止められ、ビクリと思わず背を揺らした。
「アンタみたいなチビッコが、こんなところにどうしたの?」
どう見ても場違いなのだろう。
しかも縄で縛られている身の上だ。
鉄格子の向こうから、女が緩やかに手招きをしていた。
食料を盗む店の並ぶ通りでは、見ないような綺麗な顔をしていた。
長い黒髪に縁取られた白い顔。涼しい目元。
そしてくっきりと塗られた赤い唇で微笑む顔は妖艶でもあった。
招かれるまま、警戒しながらも傍へと寄った。
くいくいと指が示すままに、顔が鉄格子に触れるほど傍に寄った。
ガシャン。
「はっぐ…」
「いい子ね…。声を上げちゃ駄目よ…」
指先を赤く染めた手で、思いがけない力で鉄格子に縫い付けられた。
頬に冷たい鉄の棒がめり込む。
「誰かに連れてこられたんでしょう?」
何をされるのかと構えて固くなる体に、鉄格子を挟んで、間近に女が耳に小声で囁いてくる。
体を抑えていた手が更に手に沿って降りていき、白いしなやかな手は、後ろ手にしばられているロープをいじる。
「繋がれたら、もう逃げられなくなるのよ…。アンタ、走るの速い?」
「うん…でも靴が…」
今も冷たい床に冷える足を気にして見つめた。
「あら…」
自分の目線に、女も足元に気づいたようで、赤い唇をぐいと引き上げて笑みを浮かべた。
その間にも、もぞもぞとされていた手首の締りが、突然弛んだ。
「外れた…。少しほどくから、先を持ってなさい。ここから出るまで縛られたフリをしてんのよ」
逃がしてくれるつもりなのだろうか。
言うとおりに、コクリと頷くと、女は満足したように微笑み、そっと鉄格子から身を引いた。
薄暗い鉄格子の向こうは、小さな部屋となっていて、ほとんどがベッドで占めていた。
その隅から、女は大事そうに胸に抱いてから、女のものとは思えない靴を出してきた。
「たぶん、合うと思うよ。足出しな」
女は指を震わせながらも、靴を片方ずつ履かせてくれた。
2人組に盗まれた靴とは違い、少しゆるかったけれど、ちょうどいい大きさの靴だった。
「これで…走れるね?」
大事なものなのか、靴の表面を手で何度も撫で擦るのを、ただジッと見つめた。
「もう掴まるんじゃないよ?」
「うん…」
返事に、靴から名残り惜しそうに見上げた女の顔には、涙が滲んでいた。
ガシャン。
突然頭を鉄格子越しにきつく抱きしめられて、したたかに顔をぶった。
頬に女の赤い爪が痛いくらいに食い込む。
「人を…信じるんじゃないよ?いいかい?私の言うことに…足を止めるんじゃないよ。…死ぬ気で、生きるんだよ」
凄みの滲むその声に、顎を揺らして頷いた。
途端、今まで優しさが漂っていた眼差しが変化した。
女が狂気の顔つきと変わって、突如金切り声を上げた。
廊下に漏れ出ていた戯れるような声もすべてが驚きに静まった。
掴まれていた顔に、更に伸びた爪が食い込んだ。
女が体を鉄格子にぶつけてきて、同じ衝撃に体が揺れた。
痛みに思わず悲鳴が上がる。
鉄格子の軋む音も追うように響き渡る。
「おい!何の騒ぎだ!?ちっ、またお前か!!」
この騒動に三人が慌ててやってきた。
振り払うこともできず、ロープの先を握る手を広げる暇すらなく、ただ女に掴まれて揺すられていた。
一度戻った店主が、注射を手に走りこんでくる。
「おい、お前は子供を放させろ。お前の方は、女の腕を抑えろ」
「あっ、せっかくの顔が傷ついたじゃないか!」
「いいから早くしろ!」
つかまれている頬に生温かいぬるりとした感触があった。
食い込んだ爪に傷ついたのだろう。
渾身の力で顔を掴んで離さない。
「ふぁあああああ、アタシの子ーー!!返してーーェ!!駄目ーっ、立ち止まっちゃ駄目ーっ」
涎を垂らし、鉄格子に何度も打ち付けるうちに、女の顔は血まみれになった。
痛いはずなのに、瞳だけは、狂った色を映してらんらんと輝いている。
それでもさすがに男の力には叶わない。
両の腕をそれぞれ2人組に掴み押さえ込まれてしまい、ようやく顔が離されて、あまりのことに、思わずよろけて床に尻餅をついた。
「ったく、日に一度はこれだ。今日は随分早い時間にきたな」
手馴れた所作で、注射器のキャップを口にくわえて外すと、持ち直して、女の細腕に突き刺した。
女の呻く声に、ハッと、我に返った。
三人の目が女に注いでいる今が逃げるチャンスだということに気づくと、外してくれた縄をほどいて、気配をたって出口を目指した。
出口の扉はいやに軋んで目立つ音が上がったが、暗い雪が舞う路地を振り返ることなく、ただ必死に走り続けた。
狂気に満ちた女の顔が、そして叫び声がいつまでも離れなかった。
そして告げられた言葉が、心に残った。
長いこと、住処にしていた場所には、もう戻らなかった。
自分が逃げ出したことで、金は手に入らなかったであろう二人組の報復があるのは目に見えてわかっていたから。
あの古びた窓の向こうから覗く子供と話すことができないままだったのが、不意に気になった。
アイツもこの寒さに震えているのだろうか。
誰もいなくて一人なのだろうか。
すると、女の狂気に満ちた顔が浮かんだ。
人を信じるなと言ったあの声音が、まるで今も耳元で囁いているような感覚で思い返された。
何度か曲がり角に差し掛かるたび、元の住処へ一度は戻ろうと思う気持ちになり、女の顔が浮かんでは首を横に振って知らぬ道へと走っていった。
街は広い。どこまで行っても瓦礫が続く。
崩れて見捨てられたようでいて、そこかしこに誰かが住む不思議な場所。
それでも、あの静かな住処に代わる場所はいくらでも見つかった。
定期的に居場所を代えながら、日々を過ごした。
ここを出なくては、いずれはいつか命を落とすだろうと思いながら。
どこからか捨てられてやってくる、同じ境遇の子達は、いなくなることはなかったが、顔ぶれは常に代わっていた。
入ることはたやすいのに、出ることがままならない。
賑やかな通り向こうの、人々がまっとうに暮している街へは、この廃墟に住む人間の出入りは容易ではないのだ。
身なりですぐにバレてしまう。
仕事をもらうことなど決してありえないのだ。
ゴミが入れ物から出てくるのを塞ぐように、通り向こうの街は入るのを拒むのだ。
ギリギリの場所で、食べ物を調達するために出没しては、身を隠す暮らしを続けた。
もらった靴は役に立った。
もう二度と盗まれないよう、常に気を張った。
自分だけが頼りだった。
人を信じず、騙しても騙されない。
食べるものを得るための過酷な毎日を、孤独に過ごした。
ザー…。
季節の変わりを告げるような、冷たい雨が降り注ぐ。
軒下から見上げる空は、灰色に曇って、街を覆ってしまっている。
染みこむ寒さに膝を胸まで寄せて、腕で覆うように抱きかかえる。
何かをしている時よりも、こうして周りの喧騒さえかき消す雨や雪が降ってそれが止むのを待つ時こそ、一層の孤独を感じて辛かった。
まともに話をしたのは、いつ以来だろうか…。
そろえた足元を見つめると、あの女と話をして以来だと気づく。
はじめは模様だと思っていた靴の染みこんだものが、血だと気づいたのはだいぶ経ってからのこと。
この靴は、あの女にとってどんなものだったのだろう。
どうみても女の履くような靴ではないのだ。
誰かが履いた跡のある靴。
履いていた人物は、これをいらなくなったのだろうか。
何故、血に汚れた靴を、大事にあの女はとっていたのだろうか。
別れを惜しむように撫でていた女は、あの時何を考えていたのだろう。
いつかこの靴が駄目になったら。足がきつくなってその役目を終えたら、返しにいくべきなのだろうか。
あの女は、今もあの場所にいるのだろうか。
きっとどれも実現しない。
店がどこかは今はわかるけれど、今も囚われているような人物を長々と置いてはいないだろう。
考えては打ち消して、それでもまた聞けないことばかりを頭に浮かべる。
今ここで、この靴を捨てようが、もらったものをどうしようが自分の勝手なのだ。
それなのに…。
気になることが頭にいくつも浮かんで、誰かにこの話を聞いてもらいたかった。
人を信じることをしないくせに、不意に話をきいてもらいたくなる。
言いたいことを思う存分に語れば、この心の寒さが塞がるような気がして…。
<つづく>第3話→http://morinodoukutu.blog.shinobi.jp/Entry/883/
さて、社長の車にいかにぶつかるかが問題です^^;
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