モリの洞窟
モリエールの妄想の洞窟へようこそ
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
見習い天使が鼻をすする音が途絶えた頃合いをはかって声をかける。
「この状況をどうやってしのぐのかな?」
「…そんなのあなたに関係ない…!だいたいここに押し込んだのはあなたじゃないの!」
「声。」
ぐぐっと不平そうに漏らすうめきに、悪魔はクスっと笑いを浮かべた。
「それは確かだけど、あのままじゃ逃げ切れなかったんじゃない?」
「そ、そんなことないもん」
「いーや、キミじゃ無理だ」
「決めつけないでよ!」
「声。」
ずっと上からな口調に我慢できなくなり、見習い天使は頭で蓋を押し上げた。
すんなりと蓋が開く。
「何でそんな…ひっ」
すぐ目の前を『死人形』が目を光らせて徘徊しているところであった。
まるで光線のように目と口から黄色い光の線が伸びて、地面を照らして歩き回っていた。
見習い天使は引き攣った顔のまま、ゆっくりと沈むようにゴミ箱に戻っていった。
「さあ、どうしようか…?」
愉快そうに話す悪魔の声に、見習い天使はますます途方にくれた。
「ちょっと」
「ん?何?」
「何であなたは『死人形』に見つかんないの?」
ずっとゴミ箱の横に立っているのだ。
探しているのは自分たちだけだろうが、まったく気にしてる様子がないのはおかしい。
「見えないように結界を張ってるからね。よほど大声でも出さなきゃ見つからない。もちろん、オレより魔力のあるのが来たら、見破られちゃうだろうけど」
「…それって、他のヒトにもかけれるもの?」
「ああ、もちろんさ。例えばキミにかけることだって出来る」
「ほんとっ!?」
思わず見習い天使は片手で蓋を押し上げて大きな声を上げた。
「声。」
「ぅあ…」
腕組みをして佇んでいる悪魔がニヤリと微笑む。
「タダじゃかけてあげれないよ。悪魔との取引には何かを差し出すのが決まりなんだ」
『叶えてほしいなら、キミは何をくれる?』
ビルの隙間から覗くまんまるな月を背後に、覗き込むように見下ろしている悪魔は魅惑の声音でそう告げた。
闇色の長めの前髪の下の、まるでケモノのような金色の瞳が優しく細まる。
見習い天使は、まばたきを忘れて魅入った。
これも魔力なのだろうか…?
持ってるものすべて差し出したいような気持ちにかられる。
「あ…」
悪魔は微笑みをたたえて、ゆっくりと片手を差し出す。
見習い天使も、それにつられるように手を伸ばしていった。
手を添えようとした、その瞬間であった。
「うっひゃ~~~っ! 坊っ!このしつこいの何とかしてくれ~~~っ!」
小さく黒い影が叫びながらビルの上空を飛び回っていた。
その後ろを例の羽のついた『死人形』が追っていた。
「ったく、あのドジ。いいとこで」
悪魔は早口で何かを告げると、両手で四角を作り出した。
それに息を吹きかけると、半透明な四角の立方体が出来上がり、悪魔の顔の前でクルクルと回った。
『ジイを回収』
右手の人差し指と中指で、その立方体を上空へと押し上げる。
途中からそれはまるで生き物のように飛んでゆき、小さな黒い影を追いかけ飲み込んだ。
そして飛んでた姿勢のまま包まれ、悪魔のもとに降りてきた。
悪魔は、呆れた顔でそれを見つめると、長く鋭利に伸びている爪でスッと線を引いた。
それはまるでシャボン玉のようにはじけて、中に取り込まれていた黒いものが羽ばたきはじめた。
「ドジ」
「ドジとは何じゃ!お前がさっきワシをすぐに回収しないからじゃろっ!」
しわがれた声や口調とは裏腹に、かわいい顔をしたコウモリであった。
「そのくらい自分でしろよ。なに悪目立ちしてるわけ?」
「うむむむ~。お目付けのワシを邪険にしたら、お前の点数減点じゃぞ!」
「はいはい。ど~もすみませんでしたね~…」
「むっ!なんだ、その面倒くさそうな物言いは!」
「や、実際そうだし…」
「何だと!?」
「小言は戻ってからだっていいと思うけど?ジイのせいで、せっかくの契約が頓挫しそうなんだけど…」
「!? あ…、まだ、終わってなかったの…?」
そして悪魔とコウモリが、ゴミ箱から片手を伸ばした状態で固まってる見習い天使を振り返った。
二人の目線に、見習い天使はあわてて手を引っ込める。
「…ジイ…」
「す、すまんっ」
先ほどまでの勢いを失くして、コウモリはしょんぼりと小さな頭をうな垂れた。