モリの洞窟
モリエールの妄想の洞窟へようこそ
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「なっ!?」
幸いなことに、ゴミ箱の中身は空で、見習い天使は何とか下になった頭を上に向けることができた。
「おチビちゃん、大丈夫?」
「あ~う~」
暗くて顔はわからないが、とりあえず大丈夫なようで、見習い天使はホッと息を吐いた。
「ワシは大丈夫じゃないわーーーっ!」
「ひゃっ!?」
急にお尻の片方が持ち上がり、踏んでいたと思われる何かが急に叫び声を上げた。
そして蓋に体当たりして、ガーンとゴミ箱の蓋が思いっきり開き、同時に空へとそれは飛んでいった。
「なっ…!?」
真っ暗な世界から、また月が昇っている夜空がひらけた。
唖然と見上げる見習い天使は、男の子がゴミ箱の前に立っているのが見えた。
人には見えないはずの自分をじっと見つめているのだ。
不敵な笑みを浮かべる金色の瞳が強い印象を放っていた。
闇色の髪。
その髪の間から角が生えていた。
「あっ、悪魔…?」
バタンとまた蓋は閉じられ、見習い天使の視界はまた暗闇となってしまった。
(な、何でここに悪魔がいるの~?)
パニックに陥りそうな頭で、今置かれている現状から必死に逃れる術を考え込む。
街の中はあの白い物体が徘徊している。
空には羽のついた白い物体が飛んでいる。
ただじっとここにいるわけにもいかない。
なんとしてもこの小さな天使を夜明けまでに天使の館へ連れて行かないといけないのだ。
ただでさえ死神に遭い、星の子を失い、途方に暮れているのに…。
さらに、悪魔だなんて…!
「バブ~」
「ん?あ、すぐここから出るからね、おチビちゃん」
見習い天使は、片手で蓋を押し上げようとする。
「んん?むうぅ~」
さっきあんなに思いっきり開いたというのにビクともしない。
見習い天使はさらに力を込めて押す。
「ぬふ~~~っ」
「ああ、いくら押しても無理だよ」
外から落ち着き払った声が聞こえた。
「誰っ!?」
「あえて聞かなくてもわかるでしょ?さっき目が合ったよね?」
「悪魔!」
「し~…。近くに死人形が来てるから、声はもっと潜めてもらおうか」
「死人形?な、何、それ?」
「声。もっと潜める」
たしなめられるようにそう言われて、見習い天使はひそひそと同じ文句を繰り返した。
「追われてたのに知らなかったの?あの白いのを『死人形』って言うんだ。死神の道具だよ」
「死神っ!?」
「声。」
見習い天使は大声を出してしまって開いたままの口を慌てて塞いだ。
外から忍び笑いが聞こえてくる。
まるで中の様子が見えてるみたいに。
「この街の外で死神とハデにやりあってたね。逃げれるとは思ってなかったから意外だったよ」
「見て…たの…?」
「もちろん。楽しませてもらったよ」
「楽しませて…?」
「ああ。あんな無様な死神の姿なんて、めったに見れたものじゃないし」
見習い天使は思わず唇を咬んだ。
他人事なのは確かだけれど、あまりに心無い言いように腹が立ってきた。
「それで?それであなたは私たちに何の用なのよ…!」
「あれ?何か怒らせちゃった?」
からかうようなクスクスと笑う声が聞こえてくる。
「おかしいなぁ。危ないところを助けてやったのに」
「助けた?」
「死人形に取り込まれそうなところを助けてやったじゃないか」
「えっ?」
たくさんの白い手が伸びてきて、あの場から逃げれたのは、星の子の姿を見たからだ。
今も星の子を追ってきてここにたどり着いてしまった。
「…!?え、じゃ…」
「キミが見た幻はオレの仕業」
「! 星の子だって、思ってたのも…?」
「キミにどう見えたかは知らないけど?」
「…星の子じゃなかったの…?幻だったの…?」
不意に生まれてしまった希望が壊れて、見習い天使は顔をくしゃくしゃに歪めて、今にも泣き出したい気持ちを必死に堪えた。
「あれ?泣いてるの?」
蓋が開けられて月の明かりが注ぐ。
悪魔がそっと覗き込む。
「泣いてないもん!もう!見ないでよ!閉めてよ!」
「さっき出たがってたのに?」
こみあげる笑いを堪えるように悪魔はつぶやき、パタンと蓋を閉じた。