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モリの洞窟

モリエールの妄想の洞窟へようこそ

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はーい、ようやく小説のラスト話です。
出来上がりましたよ!
はふ~~。
ちょっと急いで書いた感が拭えないんですが、気が向いたら訂正しようかと。
最終話待ってたのよ、という方は、つづきからどうぞv


イサのキャラが壊れてたらごめんなさい。
ミステリアスさを漂わせつつ、潔癖な雰囲気を目指してみました。
実際どうなんだろう@@

絵チャ室の置き土産なねふぁさんの絵とか、ロクジさんとの絵チャ絵とか載せようと思ったんですが、まずさきに小説のせますね~。後で更新したいので、お礼とかもあとでー
とにかくこれで、岩でも石でもなく生ビールがもらえるはずです。
ね?ねふぁさん


【追記】
思いがけず手間取ったんで、日記の更新は明日でー@@;


【ナルシス 邂逅】(最終話)

高架の道路は、スラム街に入る手前から、ゆるくカーブになっていて、壊れた建物による散乱する瓦礫が隠れるポイントとなっていた。
高速で走行してきた車は、自然とスピードを落とさねばならない唯一の場所である。
スラム街と商業地区が交差する通りがこの先にあり、当たり屋が狙う場所なのだ。
この一連の作戦を仕切る男が、通信機器を使って、高架道路に近接して建っている廃屋に配置した仲間と連絡をとりあっていた。
古いものを使っているため、あまり遠くの電波を傍受できないらしく、一番遠い場所に潜む男からの連絡を、その次に配置された男がリレーするというまどろっこしい連絡体制であった。
そのため、背後にいる仕切りの男の苛立つ声が、応答の合間に口汚く聞こえてきた。
時間はどんどん過ぎていく。
高く昇っていた太陽は、壊れたビルの向こうにすっかり傾いてしまった。
そうしている間に、何度も物資を積んだトラックが通り過ぎていった。

「なあ、小僧。このまま車が来なかったら、お前は売ることにするぜ」
「…?」

背後からの提案に、何を言い出すのかと振り返った。
顎鬚のある人売りが、すっかりごろ寝をしながらも、その目は自分をとらえていた。

「お前には時間がないだろ?」

確かに時間はない。
思った以上に、仕切りの男は慎重に車を選んでいたからだ。
立派な車が通り過ぎていくのを、ため息をついて見送ってばかりなのだ。
これが上手く行かねば、どうやら選ばなかった方に自動的に決定らしい。
どのみち、他に金を得る方法は自分にはないのだ。
女を切り捨てれば、また別の選択肢が生まれるのだが、そこまで考えたくはなかった。
了解の返事はあえてせず、男に聞いた。

「何で今の車を襲わないんだ?」
「あ?お前、スルーした車の前についてるエンブレムを見なかったか?」
「エンブレム?」
「大抵、ここを走ってくる黒い車にはユノーの社章が入っているんだよ」

もう通り過ぎた車があるように、道路を見つめた。

「エンブレム付きの車の中に乗っているのは、十中八九社員だ。ヘタをすれば殺されるぜ。重役クラスなら警備が乗ってる場合があるからな」

話に確認しようにも、車は途切れて、チェックの仕様がなかった。

「白い車。ああ。社章はなし。中の人数は? あ?わからない?」

そうして待っている間に、また仕切り屋の応答がはじまった。

「後方を黒い車が走ってる。了解」

マイクを口から離して、仕切り屋は空を見つめる。
見上げた空は、ライトをつけるには早く、日が落ちてきて一番視界に油断が生じる時間である。

「よし、白い車を狙う。準備。あと五分もしないで車が来るぞ。白い車だ」
「黒い車が後にいるんだろ?大丈夫か?」
「襲われんのが自分の車でない限り、大概無視して通り過ぎる」

顎鬚の質問にそう答えると、仕切り屋はカーブの向こうからやってくる予定の車を見据えた。
皆瓦礫に隠れて、車からは無人と見えるように配置についた。
道路に一番近い場所に自分がいた。
車を止めた後で出てくる人員も、息をこらして、背後で構えている。
重ね着している上着のシャツを脱ぐと頭にかぶり、合図が出る瞬間を待った。

「来た!」

上手い具合に建物の向こうに太陽が傾いて、暗い影を落としている。
打ち合わせの通りに、駆け込む目標の白い車を確認すると、すぐに飛び出した。
上体を低くして車に近づいていく。
車は減速も加速もない。
チラと見た車の窓は黒く、中は見えなかった。

「いまだっ!」

かぶっていた服を放ると、思い切ってボンネットに飛び乗った。
ぶつかった衝撃に、思わず落ちまいとフロントガラスに張り付いたため、黒いガラスの向こうで、車のハンドルを握る運転者が驚きに目を見開く様子までがスローに見えた。
そして、一人乗りかと思った車内に、運転手を含めて四人の人影を認めた。

キキーーーーっ!
ブレーキが強く踏まれて、反動で手が外れて車から転げ落ちた。
体を守るために、指導された通りに何度もゴロゴロと転がってうつ伏せで動きをとめた。
車は止まり、ドアの開く音がほぼ同時に聞こえた。
自分の役割はここまでのため、体の痛みを堪えながら、耳で辺りの気配を探った。
乾いた足音が自分に向かって歩いてくる。
それは二つあって、中に乗っていたうちの2人なのだろう。
走った反動もあり、額に汗が玉となって伝うのを不快に思いながら、間近に迫る足音を聞いていた。

「ぐっ」

乱暴に靴の先が胸下に入り、蹴られて体は自然とひっくり返った。
そして着ている服を強引に掴まれて宙に体が浮いた。

チャキ。
硬い音と、それを額にグイと押し込まれる痛みに、さすがに目をあけざるおえなかった。

「……」

目の前には、黒いスーツを着込んだ男が、睨みをきかせて銃を額に突きつけていた。
がたいのいいこの男は、車の助手席に座っていた人物である。

「小僧。この車を狙った理由はなんだ?」
「……」

答えずにいると、ぐい、と更に額に銃口が押し込まれた。

「今すぐ撃ち殺されたいか?」

凄む顔と口調に、不思議と怖さを感じなかった。
もう自分には後がないのだ。
ここで死のうが、あとどのくらい生きのびようが大差ないようにも思えて。

「何笑ってんだ、このガキ!」
「うぐ…」

絞るように服を持たれて首が絞まり、思わずうめき声が洩れた。

後続の黒い車も止まり、中からワラワラと黒服の男が三人出てきて、銃を片手に駆け寄ってくる。
どうやらこの二台は同じ一行だったようだ。

ウィーン。
自分を囲む黒服の背後で、車の後部窓が開いた。

「その子供をここに連れて来い」
「はっ」

ぶら下げるようにして、白い車へと連れて行かれた。
開けた窓の向こうに、2人の人物の姿があった。
手前の人物は貫禄を漂わせる男であった。
上品な素材のスーツを着こなしている。
そして奥に座る人物は、自分よりも年上であろう少年で、l黒服ばかりが乗っている車のメンバーとしては浮いてみえた。
肌も髪の毛も真っ白で、うす青の瞳が、まるで人形のような表情のない中で面白げに光っていた。

「怪我はないかね?」

少年より手前に座る人物が訊いてきた。
宙づりにされている状態で、怪我は無いかと問われてもどう答えたものか難しかった。
どこかで怪我をアピールしなくては、金を得ることができないことを思い出し、顔を更に歪めてみせた。
そうして少し開いた口から生温かいものが流れ落ちて、黒服の男の手を汚した。
途端、ばっちいものでも触ったように、地面に落とされた。
男を見上げると、白い袖口に赤い斑点が沁みていた。
自分の手で口元を拭うと、血が流れ出たことに気づいた。

「…ふう~」

チャンスとばかりに白目を出してから倒れてみた。
ここで交渉のために人が出てくる作戦だったはずなのだ。

「……」

しかし誰の足音も聞こえてこなかった。
武器を所持してることがわかって、引いたのかもしれない。

「お前、単独で当たり屋をするとはずいぶん思い切ったことをするなあ」

車の中から聞こえる声に、とりあえず弱ってるフリを続けた。
交渉がこない以上、少しでも治療費をもらわないとならないのだ。
大袈裟に咳き込んでみる。
犬歯で傷ついて流れた血が、無駄な空咳に、汚く飛び散った。

「び、病院にかかるお金…」

出したこともない弱々しい声をあげてみた。
苦しそうに息も絶え絶えを装って。

「どうします?」
「そうだな。ここで死なれては夢見に悪いな。イサ、あの子供を診てやってくれ」
「私がですか?」
「人間の体くらい診れるだろう?」
「壊れた体には興味ないんですけどね」

やりとりの後、向こう側の車のドアが開く音がして、コツコツと道路を歩く靴音が近づいてきた。

「ボロ雑巾そのものだな。おい、服を脱げ。損傷がどんなものか拝見してやろう」
「…病気もわかるのか?」
「なんだ、お前、病気持ちなのか?」
「診れるのか?」
「だとしたらどうだ?」

ガバリと立ち上がると、屈んでいたイサと呼ばれた少年が目を見開いた。

「診てほしい人がいる。来て!」

少年の白衣の袖を掴んだ途端、黒服の男に銃口を向けられ動きを止めた。

「手を離せ。撃ち殺すぞ」

言われて、屈しないとばかりに目線を動かさないまま、ゆっくりと手を外した。
一掴みで汚れた袖口を、冷ややかな目線で見下ろしたイサは、その目つきのまま自分を見つめた。

「私の役目は、お前の体が大丈夫かを診るだけだ」

どうやら女の場所には連れて行けそうになく、マヌケすぎるが、もう一度地面に倒れてみた。
何度か気絶した経験を生かすのだ。
治療費をなんとしても得なくては、という一心からの演技である。
後頭部を打つ音がむなしく響いたが、痛くてもここは我慢である。

「…バカ過ぎる…」

イサの呆れた声が聞こえてきた。
自分も呆れるほどバカだと思った。

「ふ…ふはははは。なんだコイツ!はははは!!」
「社長…」

黒服が思わず呟いたことに、驚いて目を見開いてしまい、すぐ傍に立っていたイサと目が合った。
手前に座る人物は、社長だったらしい。
ならばこうも警備の者がついててもおかしくない。
失敗したようだ。

「面白いな。ふっ。どうだ、うちの社で保護しようか?ここにいるということは、親はいないんだろう?」
「保護?」

始末されるかと思いきや、突然の話に、イサも目を見開いた。
そして黒服もだ。
思わぬ話に、起き上がった。
目があった社長は愉快そうな顔をしていた。

「ここまで命知らずなら、いずれ社のために役に立つだろう」
「こんな素性のわからぬ者を保護だなんて」
「名はなんと言う」

黒服の話を片手で遮って、社長は自分を不敵な顔で見つめて問うた。
けれど名乗る名前がわからなかった。
首を傾げたことに、社長の首も面白いことに同じ向きに傾いた。

「ふっ、名無しか。くわしい検査をするのに、後ろの車に乗せていけ」
「待って!今、見て欲しい人がいるんだ!」
「お前、社長になんて口を…」

無礼な小汚いガキを、今にも撃ちたくて、黒服の男の額に血管が浮かぶ。

「近くか?」
「近い。早くしないと…」

今日はこのためにここに来ているのだ。

「イサ。さっきは本社は暇だと言ってたな?」
「…ええ。確かに言いましたね」
「暇潰しに、慈善事業をしてこい」
「は?私が?ここでですか?また気まぐれですね」
「社長、時間が…」
「わかった。では、お前たちはイサとこの子供を連れてくるんだ」
「はっ」

社長の命令は絶対のため、後に到着した車の一人は白い車に同乗して出発していった。
残った黒服の2人が護衛とばかりに銃を構えてイサを守るように立った。

「早く用事を終えようか」

暗くなりはじめたスラムの街を、イサと護衛の2人を引き連れて歩いた。
待機していた瓦礫の裏には、当たり屋のメンバーの姿はどこにもなかった。
勝てる相手でないと判断して解散となったのだろう。

「…お前、怖くないのか?」

不意にイサに背後から言われて振り返った。

「人のいない場所で、私たちに処分されると考えないのか?」

通りで盗んで掴まれば同じことになる。
今更逃げようがないし、そう考えると開き直る気持ちになるのだ。
どうしても、女を診てもらわなくてはならないのだ。
恐れよりも、目的を達成することの方が上であった。

「なったらなった時だ」

言い捨てると、先を急いだ。
そうして、ようやく女の居場所にたどり着いた。

「遅かったな」

暗がりからの男の声に、護衛の2人が銃を構えた。
おもむろに、イサが声の主をペンライトでかざす。
光に目を細めて立っていたのは顎鬚の男だった。
銃を向けられて、両手を挙げていた。

「人を連れてくるとはおもわなんだ」
「女を診てもらうんだ」
「医者か?」

動けず立っている男の脇を通り過ぎて、寝ている女のもとに駆け寄った。

「はやく診て!」
「必要ないよ」

男が言ったことに、ドキリとして男を振り返った。
手を挙げたままの背中を見つめた。

「どれ」

イサが静かな足どりでやってきて、女を前に屈んだ。
辺りから漂う異臭に、道路で見た涼しげな顔はすっかり険しくなっていた。
横たわる女をライトで照らした。

「!」

それだけで女が死んだことがわかった。
力なく開いた口は渇いて、目元は一層窪んで、ライトに照らされ窪みに影を落としていた。
かろうじて息をしていた体は、光の下で一切動いていなかった。
念のために、イサは手袋をはめた手で女の片目を開いてライトを当てた。
女の青い目が、動きもせずにそこにあった。
青い目をしていたんだと、その時に気づいた。
今まで暗く妖しい色の照明の下でしか顔を見てなかったから気づかなかったのだ。
見下ろすイサの顔に、一瞬苦悩のような色が浮かんだ。
すぐにライトの光は落とされ、女の瞼は閉じられた。

「お前の親か?」
「違う」

あれほど女を助けようとしていたのに、助けようと医者に見せようとしていたのに、すべて無駄に終わった。
虚しい気持ちと、驚くほど穏やかになった顔に、ホッとした心地で、女の脇に膝をついた。
しばらく無言で見下ろした後、女に貰った靴を脱いで、固くなった手を開いて持たせた。

「何をしてるんだ?」
「貰った靴だから返すんだ」

それから硬い地面を掘ることはできないため、石を集めて女を埋めることにした。

「しゃーないな。世話になった女だしな」

ブツブツ言いながら、金にならないというのに、顎鬚の男も石を集めて勝手に手伝い始めた。

「お前たちも石を運べ」

イサの命令に、渋々ながらも黒服の男たちが手伝ったため、あっという間に埋葬が完了した。

「小僧、お前、オレに強烈な貸しが出来たの忘れんなよ」

連行されるように裸足で歩き出した自分に、顎鬚の男が呼びかけてきた。
呼びかけには、振り返らなかった。
ただ、路地の曲がり道では、立ち止まった。
坂を下れば住処に続く道のりだ。
あの住処の傍の建物にはアイツが住んでいる。
自分と同じ年頃の子供と、結局話ができないままここを立ち去ることになったことが気になった。
今日あったこと、一晩看た女のことなど、沢山聞いて欲しいことがあった。
ポッカリとあいた心に、今とても虚しい風が吹き込んでいるようで。

でも、自分はもう、ここを去るのだ。

暗闇に向けて、小さく手を振ってみた。
あの窓なんか見えないほど離れているというのに。
前の日に、手を振りかえしてくれた様を思い出して、目頭が熱くなった。

「何をしてる?まだ行く場所があるのか?」

不審そうなイサの声に、首を横に振ってみせると、黙って後をついていった。

それから、待機していた車のトランクに入れられて、会社へと搬送された。

「…生ゴミの臭いがするのだが」

ボソリと後部座席に乗っているイサの不満そうな声が聞こえてきた。

「はっ。空調は最大にしてるのですが」
「窓も全開にしろ」
「はっ」

窓を開ける音を聞きながら、懐かしいような覚えのある振動を感じながら寝入ってしまった。
到着後に、たたき起こされ、それからが苦悶であった。
汚いものを見るような、独特の目線の中、風呂に入れられ擦りあげられ、櫛を通さぬ髪の毛をカットされ、綺麗な服を着せられるなど、大騒ぎの後、ようやくイサが現れた。

「お前…がさっきのボロの名無しか?」
「綺麗になりましたでしょう」

カットを担当した女性が、笑顔で告げる。
出来映えを確認するかのように、イサは近寄ると、急に足を止めた。

「…まだ臭うな」

眉間に一本皺を刻んで放ったひと言に、周りのスタッフはガクガクと体を揺らした。

「まあ、いい。社長が連れてこいとの話だ。ついて来い」

イサの後を黙ってついていく。
歩いていく通路はどこもひび割れはなく、壁が剥がれてもおらず、落書きもなかった。
夜のはずなのに、明るく煌々とした光でまるで昼間のようであった。

「……」

見回す先に、ここでは見かけない子供の姿があった。
向こうも気がついたようで、立ち止まっている。
自分と同じ格好をしている。
急に胸が高鳴った。
そっと片手を挙げて手を振ってみる。

「…!」

すると向こうも同じく手を振っているではないか。
嬉しい気持ちが湧き上がってきて、思わず駆け寄った。

「おい、名無し、どこに行く」

エレベーターホールをよぎって、その子の前に立った。

「お前、お前もあの街を出れたんだ!同じ服、着てるんだな!髪の毛も短くされちゃったの?ふふっ、同じだ!」

冷たいガラスが隔てていたけれど、たまらなく嬉しかった。
自分が会いたいと思っていたように、相手も思っていたのだ。
人を信じるなと言った女の顔が一瞬よぎったが、今にも泣きそうな顔に、それは一瞬で消え去っていった。

「会いたかったんだ。さよなら言う暇なくって、ごめん…」

ピタリと当てた顔に、同じく顔を合わせてくれる。
嬉しくて、ただ嬉しくて。

「ふふ…。汚れ落としたらお前別人だな。その服すごい似合ってる。可愛いとか言われなかった?」
「何をやっているんだ、お前は!」

ぐいと襟首をイサに掴まれて、張り付いていた顔がガラスから外れた。
見上げると、高い場所にあるイサの顔は、見た中で最大に険しかった。

「あっ!」

護衛に引き渡され、引きずられるようにその場を離された。
遠くなっているガラスの向こうでも、自分と同じくアイツも誰かに連れて行かれるところだった。

「遅かったな」
「少々手こずりまして…」

ため息混じりに、イサは呆れた眼差しで見下ろしてきた。

「ほーお。それがさっきの子供か」
「ええ。随分化けました」
「ふっ。お前も似たようなものだろ」
「何のことでしょう?」
「当分、お前に預けることにしよう」
「私はすぐにギザに戻る予定ですが?」
「訓練を受けるなら、向こうの施設のほうがいいだろう。それに、コマは幾つあったって構わないだろう?」
「有能なコマでなければ無意味ですよ」
「有能に仕上げればいいだろう?自分の手で。それに…元々切り捨てても後腐れのないコマだ」

社長とイサが話をしている間、見回した部屋は、シンプルながらも煌びやかだった。
壁には飾りの縁がついたガラスがかけてある。
そっと顔を向けると、またアイツの姿があった。
向こうも驚いたようで、ビックリした顔が可笑しかった。

「何をしているんだ」

イサの不機嫌さを含んだ声に、諦めて見るのをやめた。

「どうした?」
「さっきから、鏡ばかり見てるので…」
「鏡?」
「名無しは、どうも自分の顔に見惚れているようですよ」
「ふっ。まるで失われた世界の神話だな。面白い。名はナルシスとしよう。自惚れが過ぎて身を滅ぼすか、どうか。楽しみだな」
「簡単に決めますね」
「ふっ。どうだ、これで今回の本社滞在は退屈しないだろう?」
「元はと言えば、視察云々で遠回りした挙句、社の車にちゃんと乗らないからですよ」

トゲのあるイサの物言いに、社長は豪快に笑い声を上げた。
社長が座る椅子の向こうには窓があり、雨が当たって流れていくのが目にとれた。

「雨…」
「ん?なんだ、ナルシス」
「雨が降ってるの?」
「ふむ、そうだな。降りだしたな」

自分の呟きに、社長は振り返り、雨を確認すると、興味なさげに顔を戻した。
雨音は聞こえない。
強く降っているはずの音を遮る強固な建物に、自分は囚われた。

『繋がれたら、もう逃げられなくなるのよ…』

女の囁く声が聞こえた。
自由は失くしたのかもしれない。
そのかわり無かった名前を手に入れた。

そして…。

「これからずっと一緒だよ…ナルシー」

自分が持ってなかったように、アイツも持ってないはずの名前をつけてあげた。
ほとんど一緒の名前だ。
そう言うと、微笑んでくれた。

ナルシー、お前は一番の理解者。
かけがえのない存在。
孤独の闇も、冷たい雨も、お前と一緒なら。
心の穴がようやく埋まるのを感じた。


<おわり>

 

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