モリの洞窟
モリエールの妄想の洞窟へようこそ
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ザワザワと木々が揺れ、目の前に立つ死神が着ているマントのほつれた裾が風に舞う。
見習い天使は恐ろしさに息をのみながらも、抱きかかえている小さな天使の体をさらに力をこめて抱える。
「渡してもらおう」
冷たく落ち着き払った声が届いて、見習い天使は大きな目をまばたかせて、顔の見えない死神を見つめた。
「こ、この子を?」
「そう。その魂は私がいただいていく」
「こっ、この子は天使になった!」
月を背後に従えて立つ死神が、フードの下で笑ったような気配があった。
「…残念だが…、しくじったようだな。魂狩りのリストに載ったぞ。一度切れた縁をつないだろ?」
さきほどの出来事を思い出し、見習い天使は空に浮かんだままの星の子を仰いだ。
星の子も引き攣った顔で見習い天使を凝視していた。
「…稀に情をかけすぎる奴がいるものだ。リストの魂を狩るのが私の仕事だ。さあ、渡してもらおうか」
「…や、この子は…、この子は渡せない…っ」
「強情はると、お前の魂も狩っちゃうよ? リストに載っていない魂は、手には入らないけどね」
「ひ…っ」
見習い天使は恐ろしさに身をすくめた。
そして、この死神を呼んだのは、自分がこの小さな天使のためにとした事が原因であることに胸が張り裂けそうであった。
このままでは、この子の魂が狩られてしまう。
どこもかしこも体は痛かったが、翼は傷ついてはいないようだ。
見習い天使はそっと腰を浮かせた。
「逃げれると思うか?この私から」
「にっ、逃げないと、かっ、狩る気なんでしょ?」
フードの下から笑い声が上がった。
「そろいも揃って、天使と言う奴はどうして強情な奴ばかりなのか…。呆れすぎて笑えるな」
ゆらりと鎌を構える。
さらに高いところで鎌は月の光をうけた。
「オデコちゃん!!」
鎌が振り下ろされそうになったその刹那、星の子が流星のごとく光の尾を引きながら死神にぶつかっていった。
まるでそれを見越していたように、死神は鎌の柄で星の子を打ち据え、星の子は大きな音を立てて地面に落ちた。
「ぐはぁ」
「星の子っ!」
だが、星の子はすぐに地面を蹴って死神に向かって飛んできた。
さすがに、死神にとってはこの星の子の素早さは意外であったらしく、柄で星の子の体当たりを防ぐ。
星の子はシールドを張っていて、短い両の手を伸ばした先に青白い光の壁が出来ていた。
「オデコちゃん!今のうちに逃げるんだ!!」
「でも!」
このまま自分だけ逃げられない。
自分も狩ると言ったように、星の子まで狩られてしまうかもしれない。
見習い天使は立ち上がり、目の前で死神と闘う星の子を血の気の引いた顔で見据えた。
「逃げてっ!早くっ! すぐに後を追うからっ…!」
星の子は歯をくいしばるように、苦しい声を上げた。
「星の子ふぜいが、私を止めれると思っているのか…?」
「オデコちゃん…、はやく逃げて…っ」
星の子の必死な声に、見習い天使は飛び立つべく体を沈めた。
「逃がすかっ!」
大きく鎌の柄を動かされ、星の子は懸命にその動きをシールドで防ぐ。
星明り色のシールドに、死神のフード下の顔が少し照らされて、歪んだ口元が見えた。
「それほどに、任務を成功させたいか?星の子」
「……っ」
「心の弱い星の子がたいしたものだな。多少イラついてきたんで、褒美をやろうか」
「…出でよ、『魂の記録』…!」
死神が両手で鎌を構える、体との間に青白い炎に包まれた半透明な本が現れた。
何も触れずに本は開いて、一ページずつゆっくりとめくれていく。
星の子はシールドを挟んで、鎌の柄の向こうに見える本の表紙を見つめて、目を見開いた。
「あ…っ!?」
「わかったか?これが何か」
死神はクククと不敵に笑う。
反して星の子は真っ青な顔であった。
「これはお前の『魂の記録』だ。お前の今までの生き様が載っているぞ」
「な…!?」
「お前が星の子になる前の記憶。ふふ…、ジェームス、いや…、両親にはジェムと呼ばれていたようだな」
「やっ、やめてーーーっ!!そっ、その名を呼ばないでーーーっ!!」
星の子のまるで泣き声のような叫び声が響きわたった。