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モリの洞窟

モリエールの妄想の洞窟へようこそ

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くだものを実らせた枝が風に揺れる。

ザワザワという葉音があちこちから聞こえてくる。

見習い天使は、大きな鎌を持ち自分と向き合う死神の姿に息を飲み込んだ。

そして少し離れたところでは、星の子が仰向けで身じろぎもせずに地面に臥したままであった。

この窮地に、見習い天使は怯えるばかりであった。

死神は圧倒的な力を持っていて、無力な自分が到底太刀打ちできる存在ではない。


それでも。

この腕の中にいる温かで小さな天使を引き渡すことはどうしてもできない。

「決まったかな?天使よ」

「わ、わ、私は…、天使じゃありません」

「は? 何だ急に…。その風体で天使じゃないなら、一体何だと言うんだ」

「まだ…、ただの、み、見習いです。だ、だから、天使じゃありません」

「…お前の階級など知るか。天使に違いないだろ。天使とは頭に光の輪をいただいてる奴らを言うんだからな」

見習い天使は腕の中の小さな子を見つめた。

一度は光が薄れた天使の輪は、今は金色に輝いている。

「じゃ、じゃあ、この子は天使です。え~と、魂じゃないです」

「ああ?」

「ほ、ほら、ここに…、あの、天使の輪が光ってます。だから、この子は天使です」

トン。

死神は呆れた様子で、鎌の柄で地面を打つ。

大きな音ではなかったが、恐れながら対峙している見習い天使は思わずビクリと体を揺らした。

「では、お前がその魂を天使というのなら手を離してみろ」

「手を…?」

「手を離して、魂に戻らなかったら諦めてやろう。どうだ?」

見習い天使の脳裏に、死神が現れる直前の星の子とのやりとりがよぎった。

手を離せば…この子は魂に戻ってしまう。

ひどく時間の流れが遅く感じるけれど、さほどあれから時間は経ってはいない。

見習い天使は返す言葉に詰まった。

「早く手を離せ」

「えっと…。む、無理です」

「…何だ、コイツ。何か調子狂う…」

やりとりに呆れきった死神がボソリとつぶやく。

怯えて強張った見習い天使の顔を苦々しく見つめた。

「もういい。お前の返答を聞くのは面倒だ。さっさと奪うまでよ」

「ひゃあ!」

鎌を構えて向かってきた死神に、見習い天使はあわてて近くの木の後ろへと身を寄せた。

振るわれた鎌は白い光を引いて、その木を切り落とす。

幹が倒れかけた瞬間に、見習い天使は小さな天使を抱えたまま隣の木へと向かう。

「何だ、結構、素早いではないか。てっきり天使の中でも落ちこぼれだと思ってたぞ」

言い捨てると、さらに鎌を振るう。

木は確実に切られて傾き、たわわに実る赤い実を揺らして地面に倒れていった。

倒れてゆく木からすリ抜けた見習い天使はその実を拾うと、死神に向けて投げつけた。

死神は届いた実を鎌の柄で払い落とす。

「ふん。こんな攻撃、私に有効と思ったのか?」

「だって、他にできることなんかないんだもん!」

見習い天使はまた別の木の後ろから叫ぶ。

「天使なんてそんなもんだろう。存在に意味なんてないんだ。価値があるのは魂としてだけ」

見習い天使は夢中で転がっている実を拾っては投げつけた。

けれど、ほとんどが検討違いのところに飛んでいった。

「何でそんな言い方すんのよ!」

悔しくて涙声で見習い天使は投げつけながら叫ぶ。

「事実だからだ。その無垢な魂こそ利用価値がある」

「なっ、何に使うのよ!」

「狩った魂で作り上げたお人形さんの器に…丁度いい」

ニヤリと笑い、死神は言葉を繋ぐ。

「無垢な魂は雑多な魂の集合体を一つにまとめる優秀な材料なのだ」

「…材料…?」

「そう、材料だ。だけどね、めったに手に入らない。それはお前たち天使が気づかぬうちにさらって行くんでね」

「私のお人形さんのひとつが、そろそろ駄目になるころだったから、すぐに利用してあげるよ」

「いやっ!!この子をそんなのに使わせないっ!!」

「ギャーギャーうるさい落ちこぼれ。恨むなら、自分の失態を恨め」

「だが…、無力ながらその粘りは大したものだ。そこで寝転がってる星の子と違って…」

「星の子…?」

死神は冷笑をたたえて、星の子を見やる。

星の子はピクリと体を振るわせた。

「魂の格が違う。前に狩った天使は、最期まで譲らなかった。さぁ、お前はどうかな?」

たくさんの涙に送られて生まれた天使。

涙に暮れていた母親の姿が浮かぶ。

小さい温もりを見習い天使は抱きしめる。

「絶対、絶対この子は渡せない!渡さないもん!」

「よく言った。ならば滅せよ!」

月を背に向かってくる死神の姿がひどくゆっくりに見えた。

大きな鎌の鋭い穂先が白く光る。



目を見開いて固まる見習い天使の前に、まるで流星のように星の子が現れ、死神とぶつかり合った。

 

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