モリの洞窟
モリエールの妄想の洞窟へようこそ
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「…赤ちゃん…死んじゃったの…?」
「うん…」
その瞬間を待っていた見習い天使は、女の人の悲嘆にくれる様子に、罪悪感でいっぱいとなっていた。
「…あ…?」
小さな光がその女の人のおなかの上に広がりはじめた。
きいろみがかったその光は、ゆらゆらと漂い、上へ上へと浮かんでいく。
「オーヴだよ、オデコちゃん。赤ちゃんの魂だ」
「あれが…?」
部屋にいる誰もが、その光には気づかなかった。
母であるその女の人にもだ。
光は名残惜しいように揺らめいて、そして天井へと向かい、見習い天使たちにも見えなくなった。
「行こう、オデコちゃん。屋根の上で待とう」
「えっ?あっ、うん」
愛するものが、離れていったことにも気づかずに、大粒の涙を落としている女の人の顔を、見習い天使はもう一度振り返る。
かつて自分を生もうとしてくれた人も、同じように悲しんでくれたのだろうか…?
自分はその人を、悲しませてしまったのだろうか…?
「オデコちゃん!」
「あっ、うん」
今にも泣いてしまいそうな顔に力を入れて、星の子とともに木の枝から屋根の上へと羽ばたいた。
半透明なその光は、すり抜けるようにふわふわと上がってきた。
「ど、どうしたらいいの…?」
「手をかざして、君からの祝福を与えてあげるんだよ」
「で、でも、私、今すごく気分がめちゃめちゃ…」
「いいから、言う通りに」
胸元まで浮かんできた小さな光を抱えるように手を伸ばす。
「…ふるえてる…」
小さな光の想いが伝わってくる。
「…そうだよね…。だって今までお母さんの中にいたんだものね…」
「怖くないよ、私がずっと一緒だからね…」
何も知らされず、それでも寂しさなんて感じたことなどなかった。
いつも厳しくも、温かい眼差しに見守られて過ごしてきたのだ。
「怖くないよ…怖くない…」
悲しむあの女の人の顔が浮かんだ。
この子の誕生をどれだけ心待ちにしていたことだろう…。
見習い天使の目に涙が浮かんで、頬をこぼれていった。
ポチャン…
涙のひとしずくが小さな光に当たった。
「あ…!」
小さな光はきいろがかった色から色とりどりの光を放ちはじめた。
手の中の光の質量が増す。
輝くその内側に、少しずつ人の形が生まれはじめた。
ゆっくりと回転しながら、次第に大きくなっていく。
くるくるした金色の巻き毛を生やして、背中には小さな羽根をつけ、つよい光が弾けたとき、その子の頭の上には、天使の輪が輝いていた。
「…はじめまして…新しい天使…」
ひとつの命は終わり、そしてその無垢な魂は天使となった。