モリの洞窟
モリエールの妄想の洞窟へようこそ
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「怖い?」
ふと口端を上げて悪魔がささやきかける。
「こ、怖いよ」
見習い天使のうわずった声音に、悪魔は目を細めて笑いを漏らす。
赤い炎が起こすゆるい風に、悪魔の闇色の髪がたなびく。
「何で笑うのよ。怖いの当たり前じゃない」
「いや、だって、普通もっと強がってみせない?」
「怖いものは怖いもん」
「…やめたっていいんだけど…?」
「決めたから」
見習い天使の迷いない即答に、悪魔は目を見開き、そしてすぐに目を細めた。
「…OK。デコ、キミの叶えてほしいことは?」
「このおちびちゃんを無事に天使の館に連れて行きたいの」
「…だから、おちびちゃんを守って」
「自分のことはいいのか?」
「うん。死神が現れたのは私の失敗なんだもん。このコさえ無事なら…」
星の子の最期の願いを叶えるためにも。
後悔なんてしない。
天使の輪を失って、たとえ天使じゃなくなっても、それでも星の子との約束を守りたい…。
「願いを…叶えて…」
見習い天使は頭を垂れた。
悪魔は一歩二歩とゆっくり間を詰めてくる。
「…少し痛いかもしれない」
尖った爪先で、見習い天使の頭上に輝く天使の輪の繋がりを切り取った。
音もなく、いとも簡単に天使の輪は悪魔の手の中に堕ちた。
普段目にすることもない天使の輪が、淡い輝きを放って目の前にあるというのは変な感じであった。
見習い天使は、恐々と自分の頭へと手を伸ばした。
いつも少し触れるやわらかで温かい輪の感触は、間違いなくなくなっていた。
「変な感じ…。ね?天使の輪、あなたいったいどうする気なの?」
じっと手元の天使の輪を見つめている悪魔に、見習い天使は訊ねた。
何か考え込んでいる顔を、悪魔は上げて見習い天使へと目を向ける。
「別にすぐ使うってわけじゃないさ。とりあえずしまっておこうか」
そう言って、悪魔は手を合わせた。
薄くもない天使の輪は、まるで手の平に溶け込んでいったみたいに消えていった。
「あっ!?」
「大丈夫、しまっただけ。ほら」
ひょい、と悪魔が合わせた手の平を離すと、その間に天使の輪が顔をのぞかせた。
「え?すごい!便利だね」
「すごくもない」
悪魔はつれない様子でパチンと手を合わせ、そして手を離したが、もう天使の輪の姿はどこにもなくなった。
不意に悪魔は、見習い天使が頭を触っている手を掴んだ。
その手を掴んだまま、ゆっくりと下におろしていく。
「…デコ…」
呼ばれて、見習い天使は自分より高いところにある悪魔の顔を見上げた。
「キミの願いを叶えてやろう。契約の印を」
悪魔は身を屈めてきて、長い睫毛の覆う金色の瞳がどんどん近づいてきた。
まばたきする猶予も与えずに、見習い天使の唇を己の唇で塞いだ。