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モリの洞窟

モリエールの妄想の洞窟へようこそ

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「星の子ーーーっ!!」

見習い天使は小さな天使を抱いたまま、草地に倒れた星の子のもとへと飛んだ。

死神が去ったことで、辺りはまた虫の音の合唱がはじまった。

「…星の子…?」

見るも無残に変貌した星の子の姿に、見習い天使は恐る恐る声をかける。

いつもやわらかな光に包まれていた星の子の体は今は黒く、体の芯でまるで熾き火のような光が揺らめいていた。

それは今にも消えてしまいそうな揺らめきであった。

「ねぇ、星の子…、返事して…」

見習い天使の大きな瞳に涙があふれる。

触れようと、手を伸ばした。

「…ボクに触ったら…駄目だよ…、オデコちゃん…」

「星の子…。だって、スゴイ痛そうだよ」

「たぶん、ボクの体はすごく熱い…。だから、触んないで…。オデコちゃんは…はやく天使の館に向かうんだ」

「でも…」

「…死神は…きっと、またやってくる…。今のうちに…」

「星の子を置いていけないよ」

「…ボクを運ぶことはできないよ…。大人の天使さまが二人でやっとだと思うから…」

「えっ!?星の子ってそんなに重いのっ!?」

「…だから…キミだけで…後を頼むから…。任務が成功したら…ボクも成功になる…」

「どうやって帰ったらいいのか、わかんない」

「…夜空に…青く光る星がある…移動している館への雲のトンネルが…隠されてる…それを探して…」

見習い天使は、星の子の言葉に空を見渡す。

周りを囲む木々の向こうの空には、大きな丸い月が輝いていて、星の光は薄く、青い光の星など一向に見当たらない。

「見えない…星は見えないよ」

「大丈夫…落ち着いて…心を澄ませて探すんだ…」

「見えない…どうしよう…」

「…オデコちゃん…君なら…できるから………」

言葉が途切れて、見習い天使は星の子を見やる。

熾き火のような光は、さっきよりずっと小さくなっていた。

「星の子?ねぇ、星の子、消えたりしないよね?ねぇ、星の子ぉ」

「大丈夫だって言って…、ねぇ、星の子ぉ」

「…疲れてるだけだから…オデコちゃんは任務を…。夜明けまでに…その子を…」

星の子は目をつむったまま、小さな声でささやく。

今にも消えそうな星の子に、見習い天使は大粒の涙をこぼしていた。

「…オデコちゃん…ボクはね…もうボクのために誰かが泣くのは辛いんだ…」

「うっ、えっ、だって…だって星の子っ」

「…行って。ボクのためにも…任務を成功させて…」

見習い天使はしゃくりながら、言われるままに手の甲で涙を拭う。

払っても、払っても涙は止まらない。

こんなに傷ついている星の子を置いて行かねばならないのだ。

そしてたった一人になって、この小さな天使を守らないといけない。

不安に心を揺すられて、それでも行かなくてはいけない。

「…星の子、私、絶対この子を守るから…。助けが来るまで頑張って待ってて」

涙声で、黒ずんだ体の星の子に告げた。

返事のない姿に、見習い天使は唇を震わせて涙をこらえて立ち上がる。

「…あれは…?」

突如、星の子は目を見開いた。

内側からの光に焼かれて、黒目がちであった瞳は真っ白であった。

「…あれが…あれが運命の扉…? ボクはくぐれるのですか…?」

何処を見ているのかわからない瞳で、星の子はかすれた声を上げる。

「どうしたの、星の子? 何を見てるの? 扉なんて何処にもない!」

辺りは月の光が注ぐ木々が穏やかな風に揺れているだけ。

「…光がまぶしい…」

「どうしちゃったの、星の子ぉ」

自分には見えない何かを見ている星の子に、見習い天使は恐れを感じた。

声は届いてないのか、星の子はビクリともしない。

ただ一点を見つめている。

かすかな笑みを口元に浮かべて。


「…ボクはやっと…ボクを忘れることができる…」


そう星の子がささやいた途端、今まで熾き火のようであった光は一気に輝きを増して星の子の体を包んだ。

それは一瞬のことであった。

光ははじけて四方へ散った。

小さく無数になった光の破片は、いつも星の子が飛ぶと引く同じ輝きの光の線を引いていき、

そして光は消えていった。

「いやぁああ、星の子ぉーーーーーっ!!」

見習い天使は悲鳴を上げた。

何度も、何度も星の子を呼んだ。

けれどその声に、もう星の子が応えることはなかった。

「星の子ぉーーーーっ」

静かな月夜に、見習い天使の涙声は吸い込まれていった。

 

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